「【”憲法第26条2項。幸福とは何かを学ぶ場、それが夜間中学。”様々な事情を抱えた夜間中学の個性豊かな生徒達と、彼らに対し人間として接する温かき心を持つ教師が織り成すヒューマンドラマの逸品。】」学校(1993) NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”憲法第26条2項。幸福とは何かを学ぶ場、それが夜間中学。”様々な事情を抱えた夜間中学の個性豊かな生徒達と、彼らに対し人間として接する温かき心を持つ教師が織り成すヒューマンドラマの逸品。】
ー 恥ずかしながら、この作品の存在を全く知らなかった。
だが、今作を観賞し、山田洋次監督が寅さんシリーズでもチラリと描いていた夜間中学への想いを結実させた作品だと思ったし、根底には山田洋次監督ならではの、人間への絶対的肯定感溢れた作品であると思った。-
◆感想
■今作では、夜間中学に通う個性豊かな生徒達と、黒井先生(西田敏行)とのが人間同士の交流が、見事に描かれている。
1.不良少女だったみどり(裕木奈江)と、黒井先生とのラーメン屋での出会い。そして、みどりは黒井先生のいる夜間中学に通い始める。
2.中国人と日本人のハーフの張(翁華栄)。金が大切、日本人は差別するから嫌いという彼に対して、田島先生(竹下景子)が涙ながらに言った言葉は、尊崇である。
3.韓国人で夫と焼き肉屋を営むキムさん(新屋英子)。生徒達からはオモニと言われ慕われている肝っ魂母さん。
言葉に説得力がある。
4.清掃作業で生活するヤンチャなカズ(萩原聖人)。黒井先生に何時も居眠りをしている事を叱られるが、自分が昼間に行っている清掃作業を先生に経験させ、自身の大変な生活を体験してもらうシーンは、可笑しいが貴重である。
5.不登校だったえり子(中江有里)。優しい性格だが、不仲な両親の姿に心を痛めるが、黒井先生が一生懸命に生徒に接する姿を見て、黒井先生に夜間中学の先生になる夢を語る。
6.軽度の知的障害があると思われるおさむ(神戸浩)。だが、同級生達は彼の事を決して苛めたりはしないのである。
■今作に登場する生徒の中で、最も厳しい生活を送って来たイノさん(田中邦衛)
幼い時に妹を事故で亡くす経験をし、肉体労働で日々を過ごす。
今作の半分以上は彼のエピソードで綴られる。
競馬が生き甲斐のイノさんは、字の読み書きを覚えるために偶々町で観た親切そうな医者(大江千里)に連れられて夜間中学に入学するのだが、恥ずかしがり屋で黒板にひらがなをカタカナで書いてという黒井先生のお願いに応えられないが、黒井先生がひらがなで“おぐりきゃっぷ”と書くと、張り切ってその横に大きな字で”オグリキャップ”と書くシーンからの、第35回有馬記念でのオグリキャップ優勝シーンを再現する熱弁シーンはこの作品の中での白眉のシーンである。
淀みなくレース展開を熱く語るイノさんを演じた田中邦衛さんの演技は本当に素晴らしい。
そして、闘病生活を山形で送っていたイノさんの死が伝えられた時に、黒井先生が英語を教える田島先生に代わり、皆でイノさんに黙祷を捧げるシーンからの、幸せとは何かを語り合い、議論し合うシーンもとても素晴らしいし、観ていて本当に考えさせられた。
<今作は、様々な事情を抱えた夜間中学に通う生徒達と、彼らに対し人間として接する温かき心を持つ教師、黒井が織り成すヒューマンドラマの逸品なのである。>
ドル箱の寅さんシリーズを創る代わりに監督の関心あるテーマを映画化させて欲しいと松竹に掛け合い「家族」「故郷」「遙かなる山の呼び声」そしてこの「学校」シリーズ等を定期的に制作していく事になります。「学校」は山田監督の寅さんと双璧の代表作品だと思います。
元はテレビドラマであった「男はつらいよ」の映画版監督になった頃、自分の性格とこの作品は合わないと感じていたという話もありましたが、仕事と割り切り創った作品が大ヒットとなりました。ヒットの要因はなんなのか、渥美さんのキャラは勿論なのですが、上映館を見廻って観客の反応を観たという話もあります。
先日はお疲れのところ追伸ありがとうございました。仰る通りですね。ご存知の通り山田監督は若い頃は様々な御苦労をされているということもあり社会派の視点を鋭く持っている演出家であります。松竹ヌーベルバーグと呼ばれた監督達ほどの派手さはありませんが、