「平和とは、戦争放棄とは、 短期間で製作したにも拘らずテーマは重い。」海底軍艦 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
平和とは、戦争放棄とは、 短期間で製作したにも拘らずテーマは重い。
午前十時の映画祭14 にて。
やはり、東宝特撮シリーズには伊福部昭の音楽だ。
ネモ船長とノーチラス号の影響を感じる神宮司大佐(田崎潤)と海底軍艦・轟天号。
『海底2万マイル』(’54)はジュール・ヴェルヌのSF小説「海底二万里」が原作だが、本作にも原作がある。
明治時代に書かれた押川春浪の「海島冒険奇譚 海底軍艦」は今となっては読むことは難しい…と、思っていたら、インターネット図書館「青空文庫」にアップされていた。冒頭部分だけ読んでみたが、別の意味で読むのは難しかった。復刻版も出版されているらしい。
『海底2万マイル』がそうだったように、本作も小説からは大きく改変されている。というより、まったく別の物語だ。(なにしろ原作は日露戦争前の物語なのだから)
1964年正月映画の企画が頓挫して急遽決まった代替企画だった本作は、製作期間わずか2ヶ月で、特撮部分はA〜Cの3班が組成されて同時進行で撮影したという。
かつて太平洋上にあった大陸で優れた科学力と文明を誇っていたムウ帝国は、大地震によって一夜にして海底に没した(ムー大陸伝説?)。しかし、海底太陽を建造して地下帝国を築き、1万年以上の間存続していた…。
地上に工作員を送り込んで土木の専門家を拉致し、地下帝国の落盤対策をさせていたという、どこかのテロ国家のような設定。
この地下帝国の人々は古代エジプト文明を模した様相で、平田昭彦や佐原健二が裸に近い衣装で極めて真面目な顔つきなのが面白い。天本英世はまったく違和感ないが…。
皇帝を崇めてか、神に祈りを捧げてか、宮廷での集団ダンスはよくある光景なのだが、あの「シェー・ダンス」の振付けには笑ってしまう。さらに、エキストラ(?)のダンスが全然揃っていないのも、おかしい。(振りを間違えてる者もいたぞ)
終戦間際に神宮司大佐は自身が艦長を務める〝伊号403型潜水艦〟で部隊ごと行方不明になっていたが、そこには大佐の反乱計画が隠されていて、楠見少将(現海運会社専務)(上原謙)がそれを隠ぺいしていた。
「沈黙の艦隊」の海江田艦長…みたいな。
秘密裏に陸海空万能の無敵軍艦・轟天号を開発していた「轟天建武隊」は、おなじみ南海の孤島に神宮司とその配下の部隊によって組織されていた。
地下帝国ムウもそうだが、資材などはどうやって入手していたのだろうか…。(協力する島民がいるという説明はあったが)
再び地上を制覇するために暗躍するムウ帝国に対抗するため、神宮司を説得して轟天号を味方として出撃させたい楠見たち。
日本海軍再建のために轟天号を建造したのだと主張する神宮司に、20年ぶりに再会した娘 真琴(藤山陽子)はショックを受け、真琴に想いを寄せる広告カメラマン旗中進(髙島忠夫)は神宮司を「戦争キチガイ」と非難する。
「日本は憲法で戦争を放棄したのだ」と言う楠見に「少将は変わった」と神宮司は憤る。
そこで楠見が神宮司に告げる「戦後20年という時間が我々に考える時を与えてくれた」という台詞は、元軍部の人間が軍国主義から平和主義に思想転換することが容易だった訳ではないが、それでも時の流れの中で戦争放棄の重要性を理解するに至ったことを示している。
世界制覇を目論む地下帝国の超科学力に対抗できるのは海底軍艦しかない。
しかし、海底軍艦の目的は軍国日本の再建ただ一つ。
果たして、ムウ帝国の侵略の魔の手から世界は逃れられるのか…。
山川惣治的な、ギミックてんこ盛りの防衛戦活劇なのだが、前述のとおり急場で制作されたので特撮部分はやや少なめである。
その分、本多猪四郎による探偵スリラー調の演出が引き立っていて、特に冒頭のシークェンスはその魅力がたっぷりだ。
自衛隊の出動シーンには本物の映像が用いられていて、ミニチュア場面とのコントラストが何とも言えない雰囲気を醸し出している。街中での武器輸送シーンは映画のために出動・撮影されたのだろうか。
そんな中でも、ムウ帝国に攻撃されて有楽町が陥没する場面はすごい。ミニチュアの街の下は何本かの柱で支えられた空洞で、その柱を時間差をつけてトラックで引っ張り倒して、あのダイナミックなシーンが出来上がっている。「Toshiba」のネオン看板が地中に呑み込まれていくのが印象的だ。
轟天号は潜水艦だが、陸上走行もできれば、突先の巨大ドリルで鋼鉄の壁や岩盤を突き破って地中を進み、空中飛行までできる万能戦艦だった。
この轟天号のデザインが、急遽作成された割には機能構造までよく考えられている。
ドリル部分の形状は特に、あれなら掘削して進む事が出来そうに見える。
いよいよムウ帝国が爆発崩壊するシーンの噴煙は、水槽に垂らしたインクが水中に広がるのを上下逆さまに撮影したものだ。
後に定番となる技がここで使われた。
とにかく、本作においても東宝特撮部隊による創意工夫は尊敬に値する。
物語の終焉は悲しい。
爆発する我が帝国に向って泳いで行く女帝(小林哲子)を楠見は止めない。
戦争放棄を謳うなら、無力化したムウ帝国と共存の道を探ることはできなかったか…。
ずっと昔、友人が言及してましたが、あれだけの超兵器を日本が所有する事が認められる筈が無い、国連軍に編入も横槍が入りそう。更に自分なりに考えるならば、ムウの生存者を救助して新天地を目指す位でしょうが・・「海底軍艦の敵にはなりたくないよね」な流れでしょうか?