女殺し油地獄(1957)

劇場公開日:

解説

近松門左衛門の世話浄瑠璃『女殺油地獄』の映画化。「どたんば」の橋本忍が脚色、「「元祿忠臣蔵・大石最後の一日」より 琴の爪」の堀川弘通が監督し、「危険な英雄」の中井朝一が撮影した。主演は「「元祿忠臣蔵・大石最後の一日」より 琴の爪」の中村扇雀、「どん底」の中村鴈治郎、「地上」の香川京子、「遥かなる男」の新珠三千代、「どん底」の三好栄子、それに藤乃高子、山茶花究。色彩はアグファカラー。1958年2月5日より全国公開。

1957年製作/99分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1957年11月15日

ストーリー

与兵衛は天満の油屋河内屋の一人息子で、生さぬ仲の父徳兵衛と母親のさわに甘やかされ我侭一杯に育った。親の金を持ち出しては遊女の小菊に入れ揚げるという有様だったが、そうそうは金も続かず無理な借財がかさんだ。口入屋の小兵衛から借りた金の返済期限は明後日の宵節句に迫っていた。しかも手形の判は謀判だった。印鑑偽造は縛り首の重罪である。金の工面が思うように行かない与兵衛は、家へ帰ると徳兵衛やおちかに当り散らした。挙句には殴る蹴るの乱暴を働き、とうとうさわから勘当を云い渡された。親戚縁者からは見離され、道楽者、極道者の烙印を押された与兵衛に、河内屋の向いに同じ油屋を営む豊島屋の女房お吉だけは優しい言葉をかけてくれるのだった。恥を忍んで小菊に金を貸してくれるよう頼んでもけんもほろろに断られた与兵衛の最後の寄りどころはお吉の家だった。夫の七左衛門は丁度留守。ところが徳兵衛、それからさわが間もなく現われたのだ。二人とも、三百、五百の金を懐中にして、与兵衛が立寄ったら渡してくれるようにとお吉に頼みに来たのだった。金の出来ない時には自殺するつもりで短刀まで買いこんだ与兵衛だったが、一部始終を蔭で聞き、助かりたい、河内屋の暖簾を傷つけたくない、そして親にはこれ以上迷惑をかけたくない、そう気が変った。お吉から八百の銭を涙をこらえて押し頂くのだったが、それでもまだ金は足りなかった。主人が帰ってからと云うお吉に、「無理を承知で!」と与兵衛は必死になってすがりついた。だが短刀を見てお吉は本能的に逃げ腰になった。それを追う与兵衛はいつの間にか短刀を抜き、夢中でお吉を斬りつけていた。血と油にまみれて倒れたお吉はやがて動かなくなった……。「わいのような極道もんの仏祭りは、どうでもええわ、お吉さんの回向を頼みます」そう言い残して家の者の止めるのを聞かず与兵衛は自首して出た。--数カ月後与兵衛は、高手小手に縛られ裸馬に乗せられて町中を引き廻され、処刑された。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.0人形浄瑠璃とも歌舞伎とも違う

2024年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

萌える

理性というか頭で理解して納得して欲しいという思いが入ってる脚本で演出だった。いつの時代にもいる金持ちのボンボンのええかっこしいの金食い虫のダメ息子の話ではあるが、古典にのっけると納得も理解も不要で見るだけで面白い、それが不思議だ。そして上方が舞台だから映画でも太棹三味線と大阪弁は外せない。

豊島屋(てしまや)の土間、暗闇の中で与兵衛とお吉がもみ合って思わずの血、それからままよ、と油まみれ血まみれになって滑ってひっくり返って油まみれ髪も乱れてという凄惨な場面が歌舞伎と文楽ではワクワクする。でもこの映画ではあっさりで修羅場ではなかった。与兵衛が彼女に不義の仲になってくれという台詞もなかったし、暗い中で刀を振り回してお吉に当たって血が出て大騒ぎになって最初は自分もびっくりしてお吉に謝る与兵衛が、キッと目つきが変わって・・・という流れもなくて残念だった。でもそれを求めるなら舞台で見ればいいのだろう。

与兵衛の父親役の鴈治郎の芝居は素晴らしかった。先代の恩を忘れず生さぬ仲の息子を心配する気持ちはもう心からのものだった。大阪の人が上方の芝居やるのは本当にいいなあと思った。等身大の人間が演じているからこそだろう。(当時の)扇雀(藤十郎)が上方らしい明るく軽妙な雰囲気で綺麗な顔してた。親子(鴈治郎と扇雀)とも目が少しつり上がって如何にも上方の成駒屋の顔だった。それから上方落語の神様、桂米朝が出ていたのはびっくり!とても嬉しかった。香川京子さん演じる妹おちか、兄思いでキツネつきの振りもかわいらしかった。

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talisman

5.0与兵衛の闇

2020年7月10日
Androidアプリから投稿

近松門左衛門の作品で人形浄瑠璃で初演された

殺人直前の与兵衛(扇雀)が親心に触れ しんみりする(観客も)場面から
豊島屋の女房(新珠)に金を無心する展開
二人の思惑の違い、ズレが徐々に拡大してゆき殺人に…
このジェットコースターのように上下する感情の動きが面白かった

この見せ場のピークが〈油屋の殺人〉で
樽を倒しながら 逃げる女房を追いかける与兵衛という場面になり
浄瑠璃、歌舞伎では面白味もあるが、映画だと陰惨さだけになる

扇雀(4代目坂田藤十郎)が抜群に上手く、顔も浄瑠璃の人形のようでもあり、上方歌舞伎の大看板であることを伺わせる

その瞳が空虚さも感じさせ、市中引廻しの姿に観客は〈本当に反省したのだろうか…〉と考えてしまう
ここがこの作品の一番怖い処だった

脇を固める面々も豪華で、これは物語の内容とは別に楽しめました

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jarinkochie