虹を抱く処女
劇場公開日:1948年12月16日
解説
ワインガルトナー賞邦人最初の獲得者早坂文雄の交響曲「虹」完成を機会に、それを主題として製作される。脚本は「天の夕顔」「わが街は緑なり」「生きている画像」の八田尚之。監督は「富士山頂(1948)」につぐ佐伯清。カメラは「天の夕顔」の小原譲治で、音楽は早坂文雄が担当。主演は「三百六十五夜(1948)」の高峰秀子と上原謙、それに「四人目の淑女」の宇野重吉、「生きている画像」の田中春男、「たそがれの密会」「殺すが如く」の若原雅夫、「わが街は緑なり」の三村秀子、「花ひらく(1948)」の水原久美子らが出演する。
1948年製作/87分/日本
配給:新東宝
劇場公開日:1948年12月16日
ストーリー
愛生病院の看護婦北条あき子は今日もまた公休日を日高光太郎の家で過ごすのだ。貧しく、そして結核をわずらう日高は、こうして訪ねてくれては何くれと身のまわりの世話をしてくれるあき子に耐えられぬ愛情を感じているのだが、彼は病躯と、作曲への悩みから、あき子を自分と共に不幸にしたくないと思うのだ。あき子は、日高を愛している。しかしそこに一つの疑問があった。それはあき子の一面に一人の時代に生きる女の息ぶきがあったからか--現実の生き方をうなずくからか--。ともあれ、あき子はやはり幸せな恋愛と結婚に進みたかった。もち論日高を対象としての--。だから日高がなおって、立派な作曲をしてくれることが彼女にとって一番いいことに違いなかった。しかしその反対の場合はどうしたらいいか、それはあき子にもわからなかった。その様なある日一人の青年紳士三津田が病院を訪れた。三津田はかつて外地で病いにたおれたときあき子に手厚い看護をうけ、そのときのあき子に対する感謝と愛情をもちつづけ外地で別れ別れになったあき子の姿を捜しもとめて今、現れたのだ。そして率直にあき子へ結婚を申込んだ。彼は九州の大会社の社長であり健康な体くの持主であった。あき子はこの突然の事態におどろき、そしてなやんだ。彼女の身辺の友人や、大隅博士はまたとないこの結婚にあき子をすすめる。生きている生活--それはめぐまれたものでいいではないか。愛情だけにすがって生きていくことが出来るか。あき子のもだえ。あき子は思いまどったまま日高をたずねる。そして血をはく日高をぎょう然とみつめたときあき子は自分自身がかっ血していると感じたのだ。--それこそがやはり生きる道だった、結婚なんかどうでもいいのだ。唯、今は自分の身体と同じ様に感じる日高のそばでじっとみとることのみがあき子の幸せであることをあき子は今こそひしひしと感じたのだ。