劇場公開日 1992年6月27日

おろしや国酔夢譚のレビュー・感想・評価

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4.0三谷昇さんを偲んで

2023年3月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

知的

三谷昇さん
2023年1月15日慢性心不全ため90歳で他界
仲谷昇氏と名前が似てるし劇団を移籍する際も行動を共にしたためか顔が全く違うのに混同してしまう
独特の風貌は若い頃に事故で片目を失明したため
タロウやギャバンなど味わい深い存在感が幼い頃から記憶に残る
三谷昇さんが出演作映画でこの作品が1番のお気に入りと知り今回観ることにした

原作未読
原作は『敦煌』『茶々 天涯の貴妃』『わが母の記』の井上靖
監督と脚本は『新幹線大爆破』『君よ憤怒の河を渉れ』『野性の証明』『空海』『北京原人 Who are you?』『男たちの大和/YAMATO』『桜田門外ノ変』の佐藤純彌
脚本は他に『トラック野郎 望郷一番星』『柳生一族の陰謀』『魔界転生』『南極物語』『白蛇抄』の野上龍雄と梶麻衣子主演『女囚さそり』シリーズの神波史男

歴史ヒューマンドラマ
実話を元にした原作の映画化
92年公開作品

米俵を運ぶため伊勢から江戸に向かった船が嵐に巻き込まれ長い漂流生活
やっとの思いのたどり着いたのは当時はロシア領だったアムチトカ島(アラスカ購入により現在はアメリカ領)
そこはエスキモー系のアレウト族が住む島で毛皮を求め本土からロシア商人も滞在していた
迎えの船に乗せてもらいロシア本土に渡り日本へ帰国しようと目論んだ漂流民であったがその船は沈没してしまう
それにもめげず漂流民は自棄酒のロシア人をよそに船を作り始めた
やがてロシア人も手伝い始め2年の歳月で船は完成しロシア本土に戻ることができた
たどり着いたオホーツクでは帰国の夢は叶わぬとわかると極寒のなか遠路はるばるおよそ4000キロの距離をトナカイぞりでイルクーツクに向かう漂流民
しかしロシア側は日本語学校の教師として残留を求められ帰国は許されなかった
漂流民の親方光太夫は女帝に直談判するため他の漂流民を残しコネがある学者とともに帝都ペテルブルクを目指す馬車の旅およそ5500キロ
光太夫は無事帰国できるのか?

映画の尺の関係でところどころ割愛されている
映画化そのものは悪くはないがTBS日曜劇場など何回かに分けてじっくりと扱うべき題材だと強く感じた
最後は文章の説明で補足したがそれを映像化しないといけない
それは日本テレビがかつて放送した近藤真彦主演の連続時代劇『野望の国』の最終回のラストを彷彿させた
原作小説が発表されたのちに帰国後の光太夫の生活のことがいろいろとわかってきたらしく実際に起きたことと小説は違うようだ

磯吉はもっとメジャーな役者にやらせてほしかった
当時はそこそこ名前が知れた俳優だったのかもしれないが僕でさえ全く知らない

三谷昇さんのおかげで大黒屋光太夫という偉人の存在を知った
ありがとう三谷昇さん

緒形拳と西田敏行の別れのキスシーンは衝撃的
今は亡き上島竜兵のあのギャグはこれから着想したのだろうか

配役
廻船の船頭だった漂流民のリーダー格の大黒屋光太夫に緒形拳
凍傷で片足を失う漂流民の庄蔵に西田敏行
漂流民の小市に川谷拓三
漂流民の年長者の九右衛門に三谷昇
漂流民の若者で現地の女と結婚し帰国を諦めた新蔵に沖田浩之
漂流民の若者で光太夫と共に生きて帰国した磯吉に米山望文
松平定信に江守徹

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野川新栄

4.0国の威厳。

2022年8月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

1992年公開。
まだバブルの勢いが残っていたころ。
ロシアの大掛かりな協力を得て、制作された映画。
 イルクーツクに、200年前の33万平米もの市街地を再現。しかも、歴史的建造物を補修して移築。(跡地は公園となったとか)
 ペテルブルグでは、史上初エカテリーナ宮殿内での撮影。他にも、当時の建物・宝物を特別許可のもと使用。
 ロシア側の風俗(衣裳や鬘他)は、ロシア側の専門家が時代考証をしたとか。船も?
 日本でも、京都・西本願寺内で撮影。
  (当時のフライヤーや記事から)
 CG処理のなかったころの作品。
 あれもこれも実写。大掛かりなロケ。
 女帝との謁見の間は、ベルサイユ宮殿の鏡の間を想像すると小さく感じるが、撮影に使えたエカテリーナ宮殿の一室と思うと、ため息が出る。

 しかも、ソ連崩壊が1991年12月26日。ソビエトが内部分裂を起こし、主権国家としての存続を断念した日。ゴルバチョフ氏が、政治的行き詰まりと経済的後退を食い止めるために行った改革に終止符を打った日。
 手元にある記事には、1991年4月27日、新潟空港からロケ隊が出発とある。4月末~7月半ばまでイルクーツクとレニングラード(現ペテルブルグ)で、10月下旬~12月半ばまでヤルタ、ヤクーツクとイルクーツクで撮影だったと。混乱していた中での撮影?それでもこれだけのことができてしまうんだと驚愕。否、ロシア側からしたら経済的苦境からの脱出を試みたプロジェクトだったのかな。
 核保有を背景とした冷戦に終止符をうったゴルバチョフ氏。恐怖と威嚇による支配ではなくて、両者手を取り合うプロジェクト。

☆ ☆ ☆

1989年に冷戦の終結が宣言され、1991年にソ連が崩壊したとはいえ、昭和世代にはソ連はとっても遠い国。
 その、ソ連・ロシアでのロケ。まだ見ぬ憧れをかきたてられる歴史ロマン。
 驚きと共に、その国民性にワクワクしながら鑑賞。
 日本人から見たら”キリスト教”と一色単にしたくなるが、ロシア正教か?教会の雰囲気も、”西洋諸国”とは趣が違う煌びやかでありながら朴訥とした温かさ。

ロシアの温かい人情。雄大で猛威をふるう自然。
シベリア鉄道でユーラシア大陸で駆け抜けたくなった。

☆  ☆  ☆

どこで生き、どう死ぬのか。
望まぬ体験を強いられた人々。
 「帰りたい」でも「こんなに年月が経ってしまっているのに、待っていてくれるのか」。「待っていてくれているはず。だからこそ会いたい」ー映画『ひまわり』が頭をよぎる。
 もしかしたらの未来より今の選択。
 死後、野ざらしになる恐怖。野犬等に食い散らかされるより、ちゃんと埋葬されたい。キリスト教国ではキリスト教者以外は教会で受け入れてくれずに野ざらしになる。キリスト教者となれば、祖国では弾圧の対象となる時代。とはいえ生きて祖国に帰れる保証もない。究極の選択。
 それでも忘れられない故国。仲間の願い。
 皆で帰ろう。その想いが命を支えるも、月日が経つにつれて様々な想いが交錯する。
 そんな物狂おしいほどの想いが切ない。

一介の商人が、国の最高権力者に会う。直訴。当時の日本で行ったら死罪に充当する行為。それでものこの思い。この封建社会の中で、それが叶う、それ自体が奇跡。台詞で語られるように、光太夫の人格が周りの人を動かして為し得たこと。
 と、頭では考えるが、映画の中では、苦労は語られるが、スムーズにことが進む印象が強い。でも、かかった年数を考えれば、ものすごい苦労があったのだろう。

海のこと、船のこと、外交、法律を知らぬ身には、勝手に船を作って帰っちゃえばいいじゃないという想いもぬぐえないが、そうもいかないのだろう。(映画ではそのあたりの説明は全くない。他の方には自明のことなんだろうと自分の無知を思い知る)

日本の引き取りも、海岸で役人が数人いるだけで、「え?これだけ?」とゾンザイな扱いに見えた。だって、鎖国している日本にとったら、元寇が襲ってくるようなことでしょう?その後のペリー艦隊に対する対応と比べると、あれ?という感じ。
 ロシアの船も小さいし。
 でも、ロシア側は時代考証したというし、史実に基づいているのだろう。日本側も、ロシアを刺激しないために少人数で来たのかもしれない。ペリーの浦賀に比べると、江戸からかなり遠いし。

原作未読。あの井上靖さんの作品。かなり端折って映画化されたらしい。
 映画に関しては、上記のような小さな違和感がふつふつと・・・。壮大なる絵巻なのだが、上滑りしている感もなきにしもあらず。

それでも、役者の迫真迫る演技には胸を打たれる。芸達者と名高い人々をこれだけ揃えている映画としても見どころある。
 特に、緒形さんは、背筋も凍るような極悪人から、この映画のような人を魅了してやまない実直な人物まで演じきり、改めてすごい役者だと鳥肌がたつ。
 そして、女帝の前での歌(語り)。『俊寛』とみた。能舞台か?流刑に会った俊寛が、島から離れていく船を、京=故郷に帰りたい一心で見送る場面。義太夫なら、許されて帰れるはずが、若いカップルにその権利を譲ってしまい、一生帰れない選択を自らする。それなのに、それだからこそ、いざ船が出てしまうと、帰りたい気持ちがあふれ出てくる場面。プロとしての洗練された芸ではなく 、想いの限りをぶつける。それでいて、パントマイムのような振り。見事。女帝が迫力負けして退散しようとする気持ちがよくわかる。

映像も迫力満載。

大黒屋光太夫。その生涯は色々な人の心を惹きつけ、井上靖さん以外の小説もあると聞く。
 映画のキャッチコピーは「ロシアで見たことは夢だったのかー」「鎖国の世に世界と出会った男がいたー大黒屋光太夫」「壮大な時空の中で男達は何を見たのか」
 映画では光太夫と生死を共にした仲間との顛末に心を揺さぶられる.
 だが光太夫はただ”故郷に帰りたい。家族をはじめとする親しい人に会いたい”だけではない。回船(運輸船)の船頭親方でもあるからか、元々の性格からか、好奇心が強く、希望を捨てない。おろしやで見たこと学んだことを日本に持ち帰って、皆に知らせたい、役立たせたい。先見の明。そんな思いにも溢れている。
 そんな大黒屋の想いに対する、異国での人々の温情。故国での政府の非情。やるせない。
 ロシアでは壮絶な苦労も語られるが、筋だけ追えば、上にも記したように、比較的スムーズに運んでいるように見えてしまう。光太夫は実直な人柄として描かれ、その想いに周りが動かされたかのように、物語は進む。ロシア側の人情にあふれている。
 だが、恋焦がれた日本を目の前にした途端・・・。この落差を際立たせたいがための、ロシアの描写?

国の威厳。
 余裕で他者を受け入れる帝政ロシア。
 他者を受け入れられない日本。そして今のロシア。
 どちらが、国の威厳を示せるのだろうか。

こんな風に、お互い利権・思惑はありつつも、こんな風に交流で来ていたら、戦争なんて起こらないのになあ。

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とみいじょん

3.5厳寒のロシアでの撮影。映画化の実現に感謝

2021年6月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

江戸時代の大黒屋光太夫ら船員たちが漂流してから8年、途中で亡くなったもの、日本帰国を諦めロシアで生活することを決めたもの、やっと日本に帰国できたもの。井上靖の調査に基づいて書かれた原作をもとにした映画。先進諸国の諸外国の船が次々とやってくる日本、それに対する江戸幕府の開国に向けて国中が混乱する日本。
ロシアの漂流民への生活を保障する対応。優しいロシアの人々。しかし、日本への帰国を認めない政府。ロシア語を習得し、日本への思いを強く持ちながら生き続けるが、次々と亡くなる仲間たち。
厳寒のロシアでの撮影もさることながら、壮絶な環境の中で生き抜く漁民たちの様子の映画化に感謝である。

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M.Joe

2.5漂流からの国交

2015年11月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

もう何度も読んだ本
漂流とアイヌものは読むね
まあほとんど忠実な映画だった
なんたって緒形拳は間違いない
ロシア人やエテカリーナは陳腐に映っていた

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mamagamasako

4.0現代の海外旅行とはわけが違う

2013年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波、CS/BS/ケーブル

難しい

総合:80点
ストーリー: 80
キャスト: 80
演出: 75
ビジュアル: 75
音楽: 65

 この当時、小さな日の本が世界の全てと思っていた日本人にとって、難破してロシアに漂流してサンクトペテルブルグにまで行き皇帝に日本帰国を願うということ。それを現代に置き換えるならば、飛行機が流されて火星あたりにまで吹き飛ばされ、いきなり人間以外のさらに進化した知的生命体の存在を知り、その宇宙人の皇帝に会うためにさらに木星あたりにまで旅をしたというほどの凄まじい経験であったことだろう。言葉も文化も人種も違う中で生活して生き抜くこと自体が、それはもう映画の題材としては充分なとんでもない波乱の物語である。
 そして帰国しようとしても日本の鎖国政策に阻まれる。常々思うが、当時の江戸幕府のなんと矮小で保守で近視眼なことよ。数奇な運命に翻弄された男たちの生き様が、古い矮小な時代を背景によく描かれた。

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Cape God