お引越しのレビュー・感想・評価
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おめでとうございます
独り一晩中、歩き続ける非常に長いシーンを経て、こちらも半ばまどろむ中で、明るむ湖畔に描き出される幻想的な画に繰り広げられる悲しき定め、自身の体験が重なりあって心が締め付けられる刹那に、それを切り裂く「おめでとうございます」の声。最初見て、訳もわからないぐらい泣けたのを思い出す。自分の幼さを抱きしめ、大人になった自分を積極的に受けとめる主人公。初潮と水に浸かるシーンはションベンライダーにも出てきたが、単に一少女のイニシエーションではなく、さまざまな祭りをモチーフに生と死を繰り返してきた人類の営みをも包含する名シーンである。
京都を舞台に田畑智子の表情が映える。日本の名画を立て続けて観たような表現の豊かさ。こちらが捨ておけない目力の強さを持つ。
桜田淳子も負けてはいない。ガラスを叩き割った後の形相。確かに「なんやその眼は」、しかし母親の眼の方が更にいっている。中井貴一も甲斐性なさをよく演じている。彼なりの一所懸命、役に罪を着せない演技。
男女関係の破綻ぶりも群を抜いた描き方で、その空気のいたたまれなさ、もはや修復不可能である様をこれでもかというほど盛り込んでくる。「良かったときみたいに3人で揃ってしもうて」と涙する桜田淳子。生理的拒否反応。殺傷力高し。
光と影のコントラストがついた画作り、鏡への映り込みだとか、急に大雨だとか、田畑智子の走る姿だとか、印象的な画が多い。監督作品初期に目立った奇抜さは不自然さがとれ、円熟味を増したというか、これまでやってきたことをうまく承継しながら、ここに大輪の花を咲かせた。
どうでもいいが、主人公の作文発表に続く子供の作文が酷すぎる。笑いもしっかりとってくる。
子供から大人へ
『お引越し』というタイトルは、物理的なお引越しという意味ももちろん含んでいますが、精神的な、つまり子供から大人へのお引越しも含みます
この映画の主人公の年齢である12歳という年齢は、子供から大人へと移り変わるちょうどその境目となる年齢です
スタンドバイミーに登場する少年たちもちょうどこの年齢です
彼らは、それまでは大人に引っ張ってもらい人生を歩んできた訳ですが、この年頃になると少しずつ親からの自立を始めます
この映画は端的に言えば、ある少女の親からの自立物語です
最終的に彼女が自立出来たことは、最後、お母さんと2人で電車に乗って帰るシーンから感じ取ることができます
2人は電車の中で童謡『森のくまさん』を歌います
ある日(お母さん)
森の中(お母さん) 森の中(レンコ)
くまさんに(お母さん) くまさんに(レンコ)
出会った(お母さん) 出会った(レンコ)
花咲く森の道くまさんに出会った(一緒に)
くまさんの(レンコ) くまさんの(お母さん)
言うことにゃ(レンコ) 言うことにゃ(お母さん)
お嬢さん(レンコ) お嬢さん(お母さん)
お逃げなさい(レンコ) お逃げなさい(お母さん)
短いシーンですが、1番と2番でお母さんとレンコの順番が入れ替わっています
これまでお母さんに引っ張ってきてもらったレンコが、自立してお母さんを引っ張って行く側になった事をたった30秒程で表す素晴らしいシーンでした
もう1つ、印象的なシーンがあります
同じクラスの敵対している女の子と和解するシーンです
それまで、その女の子が仲のいい親を僻む様子を理解できず、いじめに近い行動を取ってしまいます
しかし、自分自身が親の離婚を経験することで、その女の子の気持ちが分かるようになります
その結果、その女の子と和解することができました
痛みを知っている人間は人の痛みが分かるようになります
人の痛みが分かる人間は人に優しい人間になれます
その事を経験した彼女はきっと誰よりも強く優しい大人になっていくことでしょう
そんな希望を感じさせる素晴らしいシーンでした
母がこうであって欲しいと望む娘を、大人になった漆場レンコが演じ、その漆場レンコを役者の田畑智子が演じる、まるでマトリョーシカのような強烈な名シーンです
相米監督の看板というべき、ワンカットワンシーンの撮り方は本作では誠に自然で、逆にそれを感じさせない程です
本作の登場人物達と同じ時間を共有して私達は映画の中に入り込んでしまったかのような錯覚をもたらしています
主演の11歳の田畑智子演技は最早役の人物が乗り移ったかのようです
祇園の生まれ育ちだからこそのネイティブな京都弁が心地良いです
中井貴一の京都弁は方言指導を受けたことが分かります
しかし驚くべきことに秋田県出身の桜田淳子が極めて自然な京都弁を自在に操っているのです
恐ろしく自然な京都弁を話しています
驚嘆しました
そして演技もまた驚嘆すべきレベルでした
俳優としても一流です
もったいないことです
彼女はこの直後統一教会の合同結婚式で家庭に入ってしまったのですから
瀬田のロイヤルオークホテルに家族が揃ってからの展開がクライマックスです
彼女は花火を見上げていた時に大人の女性に心も体も成長したのだと思います
山中をさまよい歩き湖水に吸い込まれようとした時に彼女はおめでとう!と繰り返し大きな声を上げます
彼女は自己を第三者の目で客観的にみる大人になったことを自覚したのです
終盤の列車の車中で童謡を母と歌うあどけない彼女の姿は演じているものです
母が求める娘の姿を演じて見せているものなのです
母がこうであって欲しいと望む娘を、大人になった漆場レンコが演じ、その漆場レンコを役者の田畑智子が演じる、まるでマトリョーシカのようなシーンなのです
彼女がシームレスに重なりあって渾然と一体化していたのです
強烈な名シーンだと思います
ラストは、見た目も行動も変わらない子供のままのヒマワリ柄のワンピースです
ヒマワリとは太陽に常に顔を向ける花なのです
そして中学生の制服姿のラストシーンです
光線は夕日を思わせます
彼女は見た目は中学生でも心はもはや夕日を知る大人になっていたのです
傑作です
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