劇場公開日 1993年3月20日

「母がこうであって欲しいと望む娘を、大人になった漆場レンコが演じ、その漆場レンコを役者の田畑智子が演じる、まるでマトリョーシカのような強烈な名シーンです」お引越し あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0母がこうであって欲しいと望む娘を、大人になった漆場レンコが演じ、その漆場レンコを役者の田畑智子が演じる、まるでマトリョーシカのような強烈な名シーンです

2020年4月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

相米監督の看板というべき、ワンカットワンシーンの撮り方は本作では誠に自然で、逆にそれを感じさせない程です
本作の登場人物達と同じ時間を共有して私達は映画の中に入り込んでしまったかのような錯覚をもたらしています

主演の11歳の田畑智子演技は最早役の人物が乗り移ったかのようです
祇園の生まれ育ちだからこそのネイティブな京都弁が心地良いです
中井貴一の京都弁は方言指導を受けたことが分かります
しかし驚くべきことに秋田県出身の桜田淳子が極めて自然な京都弁を自在に操っているのです
恐ろしく自然な京都弁を話しています
驚嘆しました
そして演技もまた驚嘆すべきレベルでした
俳優としても一流です
もったいないことです
彼女はこの直後統一教会の合同結婚式で家庭に入ってしまったのですから

瀬田のロイヤルオークホテルに家族が揃ってからの展開がクライマックスです
彼女は花火を見上げていた時に大人の女性に心も体も成長したのだと思います
山中をさまよい歩き湖水に吸い込まれようとした時に彼女はおめでとう!と繰り返し大きな声を上げます
彼女は自己を第三者の目で客観的にみる大人になったことを自覚したのです

終盤の列車の車中で童謡を母と歌うあどけない彼女の姿は演じているものです
母が求める娘の姿を演じて見せているものなのです
母がこうであって欲しいと望む娘を、大人になった漆場レンコが演じ、その漆場レンコを役者の田畑智子が演じる、まるでマトリョーシカのようなシーンなのです
彼女がシームレスに重なりあって渾然と一体化していたのです
強烈な名シーンだと思います

ラストは、見た目も行動も変わらない子供のままのヒマワリ柄のワンピースです
ヒマワリとは太陽に常に顔を向ける花なのです
そして中学生の制服姿のラストシーンです
光線は夕日を思わせます
彼女は見た目は中学生でも心はもはや夕日を知る大人になっていたのです

傑作です

あき240