「満男の告白めいたものでも、彼女は母からも父からも自由になって、彼女も一人の女性になれたのです」男はつらいよ 寅次郎の告白 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
満男の告白めいたものでも、彼女は母からも父からも自由になって、彼女も一人の女性になれたのです
1991年12月公開
泉ちゃんは、今度はちゃんと前もって柴又に来ることを連絡していたようです
東京駅の新幹線ホームでの待ち合わせのエピソードは、あるある話です
名古屋からの一番後ろは1号車自由席です
一番後ろと、言われたらつい16号車に行っていまいそうになります
経験者沢山いると思います
寅次郎が三平をスカウトして商売しようとしたり、タコ社長が三平を引き抜ぬこうとしたり、ラストシーンではサブだって就職できていたことが分かるような人出不足が過熱しているエピソードが展開されて、バブル絶頂期を表現しています
就職氷河期世代には考えられないような売り手市場だったのです
そんなバブルの引く手あまたの就活事情であったのに、結局彼女の就活は上手く行きませんでした
それは本当は自分の家庭の境遇のせいかもしれないと彼女は思っています
その上、母は再婚しようと男を家に入れ始める
なんて不潔!
そんな風に彼女は自分は世界一不幸せだと思いつめてしまったのです
泉ちゃんの突然の鳥取砂丘からの絵葉書の文面には、ビビります
彼女の母の電話で家出と判明したからには、まっしぐらに鳥取に向かった満男は立派です
何時間でも砂丘で待てるのです
それが若さです
泉ちゃんと寅さんがバッタリあったのは、鳥取市ではなくて、鳥取から西に45キロ離れた倉吉市だそうです
大昔、同じ季節に仕事で行ったことがあります
鳥取から車で向かうと、日本海の美しい海岸が続きます
逆方向からですが鳥取砂丘に向かった寅さん一行が車窓からみた光景です
「寅次郎の告白」とは、直接的にはかって聖子に所帯を持とうと告白してふられたことを指しています
でも、やっぱり本当は満男の告白のことでしょう
「じゃあ、先輩はどうなの?」
「えっ俺? 奪い取ってしまう方だよ、なーんちゃってね」
大阪行きの車中、少しづつ手を握りあう満男と泉
「ママ、幸せになっていいよ、私もう大丈夫だから」
母の再婚を許せるようになったのは、一人の女性として愛し愛されることの幸せを知ったからこそなのです
母も一人の女性と見れるようになったのです
そして、満男の言葉を告白と受け止め、愛を実感した彼女は、父ではなく満男を自分だけの男性と確信できるようになったからだと思います
満男の告白めいたものでも、彼女は母からも父からも自由になって、彼女も一人の女性になれたのです
それ故に、母も自由にしてあげられるようになったのです
さて寅さんはというと、未亡人となった女将が、やっぱり寅さんと結婚すれば良かったと言い寄られると、途端に逃げ腰になってしまう体たらくです
「寅さん、また一緒に飲もうなぁ」と明るく見送る彼女ですが、見送ったあとの顔には、あきらめと悲しみが混じった表情が貼りつくのです
寅さんもバスの中でいつになくシリアスに考え込んでいます
鳥取駅で、満男と泉の二人と別れた寅さん
改札をでて鳥取駅前の商店街を歩いて看板をみた安宿に空き部屋あるかと聞いているようです
結局、寅さんは聖子のところに戻らないと心を決めたようです
「寂しさなんてのはな、歩いてるうちに風が吹き飛ばしてくれらあ」
お正月に今年も泉ちゃんは突然柴又にやってきます
3年連続です
今年も満男にどうしても会いたくなったんです
だってお正月には家族と過ごしたいものです
つまり彼女はもうすでに満男と家族になるつもりになっているのです
満男本人も、満男の両親も、周囲だってそういう未来しかないと思っています
前作の中盤での寅さんの泉ちゃんと満男の結婚のアリア
そのシーンかいつか本物になると私達観客も信じていました
それがまさかの人生の展開になるのは、この時誰も予想していませんでした