「人は、何の為に生きているのか」男はつらいよ 寅次郎物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人は、何の為に生きているのか
シリーズ39作目。
残り10本。いよいよカウントダウン!
OPの夢は、寅さんの少年時代。
親父に折檻され大喧嘩し、さくらの「お兄ちゃん!」を後ろ背に、旅立つまで。
寅さんファンなら誰もが知るエピソードを、無声映画風に。
尚、今月からNHKで、寅さんの少年時代を描いたTVドラマ『少年寅次郎』が放送。こちら、見てみよう!
満男が柴又駅で出会った一人の少年。
寅さんを訪ねて来たらしく、あまりの奇遇さに満男は飲んでいたジュースを吹き出してしまう。
遥々福島県郡山市から…って、私が住んでいる町ではないか!
なので、いつも本作を見るとこの秀吉少年に親近感を感じてしまう。
かの天下人のような大層な名前の名付け親は、寅さん。内向的な秀吉くん、名前負け…かな。
寅さんのテキ屋仲間の息子。が、ろくでなしの父親は死に、苦労続きの母親は蒸発。つまり、孤児(みなしご)。
父親から、俺が死んだら柴又の寅さんを訪ねろ…と言われてこうして来たのだけれど、
とらや一同、困惑。
そんな時帰ってくるのが、この男!
寅さんあるあるだと、「誰だ、このハナタレガキ…?」と言う所だが、珍しく秀吉の事を覚えていた。
事実を聞くなり、母親を見付けてやる事を約束する。
早速テキ屋ネットワークを使い、母親の足取りを掴む。
秀吉を連れ、母親を訪ねる旅へ。
和歌山県~奈良県吉野。
女中をしてた旅館を方々訪ねるが、何処もすでに居ない。
道中、秀吉が高熱を出して寝込んでしまう。
老医者(演・松村達雄)から、「何でこんなになるまで放っといた!?」と怒られるくらい病状悪い。
が、色々助けもあって、何とか回復。
寅さんと秀吉少年の旅は、心配した通り心配だらけ…。
そんな時有難いくらい力になってくれたのが、旅館の隣室に泊まっていた一人の女性。名は、隆子。
寝込む秀吉に一晩、付きっきりで看病。
隆子は寅さんと秀吉を実の親子と勘違い。老医者や旅館主は家族と勘違い。
そんな誤解もあって、ついつい互いを「父さん」「母さん」と呼び合う。
心配して電話を掛けたさくらはそれを聞いて呆然…。
心優しき隆子だが、実は彼女も訳ありで…。
マドンナ・秋吉久美子が色っぽさも滲ませて好演。
秀吉の母親が今居る所が、三重県伊勢志摩と判明。今度こそ、間違いない。
果たして、薄幸な母子の再会は…?
人情物語故、結末は予想通り。
寅さんの善意に、御前様からも惜しみないお褒めの言葉を。
母と子の涙の再会もさることながら、
役目を終えた寅さんと秀吉の別れも涙を誘う。
本作や『菊次郎の夏』もそうだが、堅気じゃない男と孤独な少年の交流はグッとさせられるね。
母親に五月みどり、病床の彼女を温かく世話する真珠店の女主人に河内桃子…ゲストも豪華。
本作で美保純演じるあけみが最後の出演なのは残念で寂しい。(でも、年末の新作にカムバック!)
寅さん版母を訪ねて…なロードムービー。
マドンナとの仄かな恋慕。
みなしごを母親の元へ送り届ける…とは聞こえはいいが、孤児の保護施設からは現実的な注意も。
本作も安定のシリーズの一作に見えて、実は非常に奥深いテーマに踏み込んでいる。
孤独な少年。
薄幸のその母親。
隆子も男に捨てられ、どうにでもなれ…と思っていた。
満男も進路で思い悩んでいた。
人は、何の為に生きているのか。人の幸せとは…?
終盤、満男がおじさんにズバリ聞く。
「人間って、何の為に生きているのかなぁ…?」
「あぁ生まれて来て良かったなぁって思う事が何べんかあるだろ。その為に生きてるんじゃないのか」
苦楽を経験した事の無い幸せ者や裕福者には響かないだろう。
でも、苦楽を経験した事ある人には…。
ふとしたきっかけからの出会い、再会、別れ、人助け、優しさ、幸せ…。
寅さんだから言えるこの台詞。しみじみと。
個人的にこの台詞は、シリーズでも一番。
…いや、映画好きになって多くの映画を見てきたが、中でもBESTに挙げてもいいくらいの名台詞!
昔、知人にこの台詞を聞かせたら、下らねぇとばかりに小馬鹿に失笑された。
コヤツだけではなく、結構色んな人にこの台詞を聞かせる事があるのだが、ほとんど笑われる。
笑うなら笑えばいい。馬鹿にするなら馬鹿にするがいい。
でもきっとコイツだってその他知り合った人たちだって、そう思えるひと時がいっぺんでも無いと言ったら、それは嘘だ。
人は、何の為に生きているのか。
そう。人は、生きて来て良かったと思える幸せの為に生きている。
ありふれて、とても深い。