「二人が一緒になるのは夢かもしれないけど、あの一緒に暮らした日々は夢ではない」男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
二人が一緒になるのは夢かもしれないけど、あの一緒に暮らした日々は夢ではない
シリーズ25作目。
いよいよ折り返し!
さて本作は、『夕焼け小焼け』『知床慕情』と並び、シリーズ一、二の名篇と名高い。
山田監督自身シリーズの中でも最もお気に入りで、渥美清亡き後、特別篇として公開したほど。
いつものOPの夢は割愛させて頂いて(ちなみに、ねずみ小僧・寅次郎)、早速本筋へ。
仕事の営業回り中、博は思わぬ人物と再会。
リリー。
過去2度、寅さんと愛を語り合った永遠のマドンナが三度登場。
変わらずの各地のキャバレーで歌う旅暮らしで、寅さんを懐かしむ。
それから暫くして帰ってきた寅さん。ちょうどとらや一同出掛ける寸前で、余所余所しい気遣いにおかんむり。
喧嘩ムードになる中、そこへ速達が。
差出人は、リリー。手紙の内容が…
仕事中、血を吐いて倒れ、入院しているというリリー。うんざりな自分の人生、でも最後にせめて一目、寅さんに会いたい…まるで死を仄めかしているかのよう。
かつて惚れ合った女がこんなにも落ち込んでいる。
漢・寅次郎はすぐにでも駆け付けてやろうとするが…、リリーが今居る所というのが、何と沖縄!
どうやって行く? どうやって行ったら一番早く着く?
そうだ! 飛行機だ!
ところが…
これも有名な爆笑珍エピソード、寅さん飛行機怖い。
何とか空港まで行くが、子供のように柱にしがみ付く。ジェット噴射で飛ぶと聞いても、「芋食って屁こいて、それで空飛べるか!?」と訳の分からない事を言い出す始末。
と、そこへ美人スチュワーデスが通り掛かり、ふらふらと後をついていく。まるで嵐を呼ぶあの5歳児!
初飛行機に乗り、やっと沖縄に着くが、降りる時はフラフラ&車椅子…。
色々あって、やっと辿り着いたリリーの元へ。
普段男勝りのリリーだが、この時ばかりは守ってあげたくなるような女になる。涙を流し、寅さんに抱き付く。
病状回復しなかったリリーだが、寅さんが来てからみるみる元気になっていく。
ある日寅さんが見舞いに来ると、おめかししているリリー。「どうしたんだ?」「これから二枚目が来るの」「誰が?」「もう目の前に来てる」…二人のやり取りも健在。
その仲睦まじさに、周りは焼きもち焼くくらい。
そして晴れて、退院!
暫く安静する事に。
海岸の小さな貸家で暮らす。寅さんとリリー、二人で。
ここからが、本作の本当の本題。
療養しながら、家事をするリリー。一応以前所帯持った事あるので、ある程度の事は出来る。
夕方、寅さんが稼ぎから帰ってくる。
風呂に入り、一杯飲み、向かい合って夕飯。
昼のクソ暑さとは売って変わって、涼しい海風。波音。
ハイビスカスの香り。
隣家から聞こえてくるおばさんの沖縄民謡。
いいなぁ…。この沖縄のムードが堪らなくいい。
そんな中で営む寅さんとリリーは、夫婦そのもの。
違和感も不自然もない。
やはり二人はお似合い。
が…
マドンナと親密になってくると距離を置き始める寅さん。水族館の若い女の子と仲良しに。
体調回復してきたリリーは、また仕事する事に。
反対する寅さん。「俺が食わせてやる」
「男に食わせて貰うなんて真っ平」と、やはりリリーはリリー。が、重ねて言う。「でも、夫婦だったら別よ」
この言葉はひょっとして…。
寅さんも意味は分かっているのだろう。だから、「何馬鹿言ってんだ」と笑って受け流すしかなかった。
その時、リリーの目に光るものが…。
そんなリリーを気遣うのが、隣家の青年・高志。
寅さんはリリーと高志の仲を疑う。
「てめえら、デキてやがんな!」
この寅さんの言葉はおかしい。寅さんとリリーは夫婦ではないのだから。
大喧嘩。
夫婦のような二人の暮らしはほんのひと時。翌朝リリーは居なくなっており、寅さんもリリーを追うかのように東京へ。
ここがまた笑える。
船や電車を乗り継ぎ、3日3晩飲まず食わずでやっと帰ってきた柴又。
行き倒れ状態で、柴又中大騒ぎ。さらに、栄養ある物とおばちゃんが買ってきたうな重にむしゃぶり付く!
病に伏したリリーを元気付けに行ったのに、自分が行き倒れ状態で帰ってくるなんて、オイオイ…!
寅さんの体調が回復してから何があったか事情を聞くさくらたち。
寅さんの不甲斐なさに呆れ、責められる。
今度会ったら、俺と所帯持とう…と言うべきよ、と。
今度会った時。そんな時、とらやを訪ねてくるのが、運命のマドンナ、リリー!
喧嘩した事など忘れたかのように楽しい思い出話に花が咲くが…、
寅さんが不意に切り出す。
「リリー、俺と所帯持つか?」
リリーの答えは…。
このすぐ後のさくらとリリーの会話になるが、「お兄ちゃん、ちょっと本気だったのよ」と言うさくらに対し、リリーは「分かってる」。
しかしリリーも、あの時の寅さんのように冗談と受け止めて笑い流すしかなかった。
惚れ合っている。一緒になるなら、この人/この女しか居ないとお互い分かっている。
だけど結局、一緒になれない。
そこが渡世人の男と女のつらい所…。
お互い言う。
あの沖縄での夫婦のような営み。暑さで夢を見ていただけさ、と…。
ラストシーンがまた粋!
バス停でバスを待っている寅さんに、旅バスから女が降りてきて話し掛ける。
寅さんはその女の顔を見て、
「何処かでお会いしましたっけ?」
「以前、お兄さんにお世話になった女です」
「はて、こんな美人をお世話した覚えありません」
「この白状者!」
再会して、惚れ合って、喧嘩別れして、そしてまた再会して…。
エンディングの後、二人はまた繰り返すだろう。
そして二人は最後にもう一度、巡り合うのである。渥美清の遺作となったシリーズ最終48作目、『寅次郎紅の花』にて。