「恐るべき才能たちの、洗練されていない泥臭さ。」王立宇宙軍 オネアミスの翼 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
恐るべき才能たちの、洗練されていない泥臭さ。
ガイナックス初の長編劇場作品。
伝説のオリジナルメンバーが作り上げた、壮大なる宇宙開発創成期のドラマ。
【ストーリー】
エリートが集まるせまき門の水軍をあきらめ、王立宇宙軍に入隊した、主人公シロツグ・ラーダット。
そこは怠惰な空気の支配する、落ちこぼれの集まりだった。
軍からも民間からもムダ飯ぐらいと疎まれ、バカにされる宇宙軍。
宇宙船開発中の事故で、パイロット仲間が次々死んでゆく中、彼らとバカ騒ぎしてはうさを晴らす毎日。
そんなある夜、シロツグは歓楽街で啓蒙ビラをくばる少女、リイクニに出会う。
ひたむきな彼女の姿に触発され、シロツグは人類初の宇宙飛行士として宇宙に向かうことを決断するのだ。
ガイナックスがこの作品を作るためだけに創設されたのは有名な話。
監督の山賀博之を筆頭に、今や日本映画界では知らぬ者のなしの庵野秀明、エヴァンゲリオン〜シンエヴァまで共に組んだ貞本義行、ガイナックスの元代表取締役にしてプリンセスメーカーでヒットを飛ばした赤井孝美、犬狼伝説の藤原カムイ、Be Freeの江川達也、ヤダモンのSUEZEN、プロジェクトA子の森山雄治、LASTEXILEの小倉宏昌、シン・ウルトラマンの樋口真嗣、銀河乞食軍団シリーズの野田昌宏、変なYOUTUBERとなってしまった岡田斗司夫まで、制作に錚々たる面々がそろったこの映画。
彼ら参加クリエイターのほとんどが20代、青春まっさかりの時期に全力を投じて創りあげた物でしたが、ストーリーは分かりにくいしキャラクターの動機はボヤっとしてるし場面転換は説明不足だし感情移入はしづらいしという、視聴者ほったらかしの内容でストーリーテリング面では評価できる箇所は見あたりません。
ですが膨大な設定と描き込み、レイアウト、正確な動きの動画など、作画クオリティはアニメ史上最高レベルに到達しています。
繰り返して楽しめる物語は細部に神が宿っていると言いますが、この『王立宇宙軍オネアミスの翼』はまさしくその細部にこそ突きぬけた魅力がぎっしり詰まった作品でした。
大阪のSF大会で上映された伝説のDAICONフィルム、その制作で積み上げたノウハウ、執念の描画力を叩きつけた画面は、全てが超一級品。
劇中の音楽も坂本龍一御大の作曲や監修で、今聴いても遜色ないクオリティを発揮しています。
興行的には大失敗しましたが、その後のクリエイターたちにとって確かな、そして大きな楔となった本作。
ぜひ広い画面と素晴らしい音響のそろった映画館で観たいものです。