「やっぱり京マチ子、だよなあ…」雨月物語 osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
やっぱり京マチ子、だよなあ…
この作品は、スクリーンで観なきゃダメな日本映画の筆頭だと思っていて、やっと観ることが出来たのだが…
う〜ん…
これは過大評価されすぎ。
期待していた幽玄な美は然程でも無かった。
昔、淀川長治も、その美意識の程を絶賛してはいたが、それほどでも無かったなあ。
あと4Kのリマスターも、思ってたほど解像度が上がってなかったような…
あれが、ほぼオリジナルの映像と言われれば、それまでの話なのだが。
ゴダールをはじめ、名だたる海外の監督たちは何処がそんなに良かったのか?
確かに素晴らしいシーンは幾つもあるが(特に舟漕ぎのシーン!)
メインのストーリーと並行していた立身出世の話の方は特に必要は無かったし(ああいう女が犠牲になって男が出世する話が、とにかく溝口健二は好きらしいけど)、もっと奇怪な世界観にどっぷりフォーカスして欲しかった。
特にオープニングは、あの舟漕ぎのシーンから始めるべきだったなあ。
あそこまでの話の流れは、主人公を含めた三人の会話の中に取り込んでしまえば、コンパクトにまとまったと思うし、瀕死の男を乗せた舟との遭遇によって、冒頭から不穏で不吉な雰囲気バッチリで、掴みもオッケーとなったはず。
あと、俳優陣も京マチ子以外はイマイチ…
溝口健二も当然ながら演技には厳しかったようだが、実際のところ本作では、黒澤明ほどの数ヶ月にも及ぶ執拗な演技指導(というか鬼のようなダメ出し)などは、脇役や子役も含め、然程やってなかったんでは?
リアルを追求してるのは分かるが、結果、見えてくるのは、リアルに見せようと努力している職業俳優に過ぎなかったりする。
森雅之も田中絹代も、ホントはもっと出来たと思うけどなあ。
その点、京マチ子は素晴らしい。
彼女の存在なしでは全く有り得ない。
ああいった役柄で、ああいう絶妙加減な芝居が出来る女優は、たぶん他にいなかったと思う。
山田五十鈴でも出来たかもだが、ちょっと怖さの方が妖艶さより強く出て来そうだ。
大映の女優限定という事情もあっただろうが、たぶん『羅生門』を観て、溝口健二の頭の中では、もう京マチ子しか有り得なかったのでは?と思う。
なので本当は、もっと妖艶なシーンを撮りたかったんじゃないかな?
てゆーか、そっちをもっと観たかったよ。