「ジャポニズム、そして戦後の鎮魂」雨月物語 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
ジャポニズム、そして戦後の鎮魂
映像に酔いしれる。
姫の、妖艶でいながら、ふとした拍子のあどけなさ。恋する乙女と、恋に縋りつく女の表情。そして怖さ、裏切られたことを知った時の切なさ。
右近の、慎み深さ。それでいて有無を言わさぬ押しの強さ。思いを遂げられないことを知った時の無念さ。
この二人が、滑っているかのように、土を踏んで歩いていないかのように、動く。
この二人が動くほどに、光と影が姿を変える。
生活感など、微塵も匂わせない佇まい。けれど、そこに”思念”ははっきりと伝わる。
息が白く見えるのでさえ、演出かと思ってしまうような幽玄の世界。
屋敷の調度とともに、ため息が出る。
田舎の鄙びた風景。基本、同じことの繰り返しが続く静的な日々。-雑兵さえ来なければ。
都会のエネルギッシュでダイナミックさ。-そのすぐそばにある落とし穴。
屋敷の、雅やかなものを愛でつつの、姫たちの心づくし、完璧な世界。-見失う現実。
その、田舎と、都会・屋敷を繋ぐ、びわ湖の、セット丸出しなのに、あの怖さ・不気味さ。
もう、これだけでお腹がいっぱいになる。
原作は、学校で名前だけは習う、読み継がれている江戸時代の作品・『雨月物語』の中からの脚色。
漫画とか、いろいろな媒体で脚色される『浅茅が宿』。
『木綿のハンカチーフ』にも通じる、都会の色に染まって勘違いした男が、都会にすべてを絞りとられて、故郷に帰ったら…という脚色の方が好き。
『蛇性の婬』は未読だけれど、『白蛇伝』の方が好き。
これまたいろいろな媒体で表現される『安珍清姫』『耳なし芳一』『牡丹灯篭』の方が壮絶。
この映画では、姫と右近も、男も、ちょっと中途半端。
正体がばれた時の演出は必見だけれども。
原作は、もっとシンプルな、どんな時代にも通ずる人間の業ーあさはかさや切なさーがあぶりだされるような、胸を締め付けられるような話。だからこそ、江戸時代の作品なのに、いまだに読み継がれる名作。
その二本をまとめた話に加えて、オリジナルの、もう一組の夫婦を描く。
夫の役目って何なのか。
立身出世や金儲けをして、妻や子に良い暮らしを与えること?
家族の安全を守ること?
こんな問いかけも、この映画は訴えてくる。
ちょっと、説教臭くなってしまった。
というか、全部戦さのせいになってしまった。
落ち武者や、雑兵のすさまじさよ。
彼らが傍若無人にふるまわなかったら、女たちの運命も違っただろうにと思わされるような筋。
「つわものどもが夢のあと」的な無常観を描きたかったのか。
豊臣が天下を取るまではまだこの地は戦乱に巻き込まれるだろうに、映画は、霊魂に見守られながら、平和な日常で終わる。
日本昔話的に収めたかったのか。
1950年代に制作された映画。まだ戦争の記憶も生々しいころ。
終戦直後は、家を焼かれ、家族を失い、生きるために、映画の落ち武者や雑兵のようなことをする輩もいたと聞く。
そんな時代を生きた人々への鎮魂のように見えてしまった。