「普遍的主題と日本的美しさの見事な調和」雨月物語 yugoさんの映画レビュー(感想・評価)
普遍的主題と日本的美しさの見事な調和
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傑作です。
世界中誰もが理解できるテーマを伝統的な日本文化の中に描いていて、日本映画を代表する作品だと思います。本作のテーマはイソップ寓話にも似て子供でも理解できるものであり、この映画を楽しむのに何の苦労もありません。しかしそれは日本の古典を題材として、日本の美術や音楽の中に溶け込んでおり、日本文化の粋を集めたものと言えると思います。幽玄の世界が描かれた若狭のシーンも物語の中にうまく溶け込んでいます。
京マチ子さんは子供の頃にたまにテレビで拝見して、失礼ながら普通のおばさんとしか見ていませんでした。しかし羅生門でその演技の凄さを知り、この作品でもそれを再認識しました。女の持つさまざまな側面をものの見事に演じられる女優です。
若狭の魔性、宮木の聖女、おはまのノーマルな女性像と、三者三様の女性像も見事に描かれ、演じられています。黒澤明は羅生門の主演女優を田中絹代にしたかったそうですが、京マチ子で正解だったと思います。
個人的に一番胸に染みたのは、源十郎夫婦や藤兵衛夫婦に対してではなく、女の幸せを知らずに無念の死を遂げて怨霊になって現れた若狭の悲しみでした。私の感性は少しゆがんでいるのでしょうか。
子供のセリフが一切ないのは意図されたものなのかたまたまなのかわかりませんが、喋るよりも遥かにこの物語の悲しさが伝わってきました。達者な子役ばかり見せられる現代日本ではとても新鮮でした(笑)。
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