4分間のピアニスト : 映画評論・批評
2007年11月13日更新
2007年11月10日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
“歴史”を巧みに活用することで生み落とされたアート系娯楽映画
最近話題作を連発して注目を集めるドイツ映画界から、“女囚もの”としては異色の格調高き(?)個性派映画の登場だ。一癖も二癖もある女性囚人たちのなかでも、ひときわ暴力的で不従の姿勢を貫くジェニーだが、いざピアノを弾かせてみると誰もが舌を巻く天才級の腕前で、監獄で長年ピアノ教師を務めてきた老女と運命的な出会いを果たす。
物語は、自分で自分をコントロールできないジェニーと、あくまでも昔かたぎの厳格さで教え子に接する老女とのギクシャクした関係を出発点にしながら、次第に心を通わせ合うにいたる2人の交流に焦点を当てる。たとえば、物語が進むにしたがってナチス時代における老女の秘められた過去がおぼろげに浮かび上がり、2人の女性が共に深刻なトラウマの持ち主であるらしいことが明らかになるのだ。僕の好みからすれば、正直あまりにもドラマティックすぎる展開では……と皮肉りたくもなるのだが、結局、筋金入りのパンクで行動を読めないジョニーにどこまで感情移入できるかが鍵を握るだろうし、とにかくエネルギッシュに観客を引っ張り込む完成度の高い映画であることは疑いない。ドイツにあってアメリカに欠けているもの……それは、クラシック音楽の伝統やナチスに支配された暗い過去に代表される“歴史”である。この映画は、ハリウッド映画に対抗すべくドイツに固有の“歴史”を巧みに活用することで生み落とされたアート系娯楽映画(?)なのだ。
(北小路隆志)