30デイズ・ナイト : 映画評論・批評
2009年8月18日更新
2009年8月22日より新宿ミラノほかにてロードショー
色彩と意匠で独自の世界を創造することに成功
白、ありとあらゆるニュアンスの蒼。ごく少量の黒に近い赤。そしてたっぷりの冷気。この映画は、色彩と意匠で独自の世界を創造することに成功している。北極圏。30日間続く夜。凍った雪原。その上に落ちる月の影は蒼い。僅かすぎる光の中で、血は赤くなく、黒味を帯びる。吸血鬼たちが一見人間に似て見えるが、その表情、行為と動きで、人間とは決定的に異なる存在であることが分かる。
監督デビッド・スレイドは、英国北部シェフィールド育ち。冷気との相性のよさは北方育ちのせいもあるかもしれないが、前作の現代版赤頭巾「ハード・キャンディ」も冷たい色彩設計と静かな凶暴性が妙味。凍った美学は彼の個人的嗜好かもしれない。
もうひとつ、本作が優れているのは、原作グラフィック・ノベルとの関係の取り方。原作コミックのベン・テンプルスミスの画は、フランシス・ベーコン系の画風。本作は、その画をそのまま映像に置き換えるのではなく、「独自であること」のみを引き継ぎ、映像ならではの世界の構築を目指す。原作の根幹である、夜の凍った空気は、そのまま尊重したうえで。原作の誠意ある映画化とは、原作コミックを絵コンテにすることではない。そのこともまた、この映画は実証している。
(平沢薫)