アクロス・ザ・ユニバース : 映画評論・批評
2008年8月5日更新
2008年8月9日よりアミューズCQN、シネカノン有楽町2丁目ほかにてロードショー
驚きがいっぱいの独創的なミュージカル
ビートルズの歌曲だけを使ってミュージカル映画を作る。陳腐なアイデアに思えるかもしれない。しかし、それを実現するのがジュリー・テイモアとなれば、話は別だ。彼女は舞台版「ライオンキング」でミュージカルの常識を覆し、「タイタス」「フリーダ」では斬新な映像センスでストーリーテリングの可能性を押し広げた鬼才。もちろんこのミュージカルでも、少しも期待を裏切らない。
物語は若者たちの恋と友情を語る、ごくごくシンプルなもの。しかし、ビートルズの33曲がストーリーと登場人物の心情にピタリと当てはまり、60年代という時代そのものの豊かな表現になっている。しかも、曲ごとにガラリと色を変える語り口の多様性、独創性ときたら! 俳優たち自身のライブによる歌声は、ミュージカル嫌いでも思わず引き込まれるリアルな感情と空気感をたたえて見事だし、普通のミュージカルならダンスがもたらす躍動を、映像そのものが担っているのだ。しかも、この曲をそう使うのか! という、たまらない驚きがいっぱい。恋人ではなく、徴兵ポスターの語りかけから始まる“アイ・ウォント・ユー”(ヘビーな彼女の正体に注目!)や、イチゴ爆弾が炸裂する“ストロベリー・フィールズ・フォーエバー”など、テイモア印の大胆で爆発的な発想は見る者を圧倒。まるで万華鏡を覗いているような、めくるめくマジカル・ミステリー・ツアーに連れ出してくれる。
(若林ゆり)