イースタン・プロミス : インタビュー
「ヴィデオドローム」「ザ・フライ」「裸のランチ」の鬼才デビッド・クローネンバーグが、前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に引き続いて、ビゴ・モーテンセンとコンビを組み、バイオレンスの世界を掘り下げた「イースタン・プロミス」。ロンドンを根城に暗躍するロシアンマフィアのリアルな生態を描いた本作について、クローネンバーグ監督に話を聞いた。(取材・文:村山章)
デビッド・クローネンバーグ監督インタビュー
「ロシア人の犯罪者から、誰よりも好意的なレビューをもらったんだ(笑)」
――前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に続いて“暴力”を追求していますが、いま一番興味を惹かれるテーマなんでしょうか?
「自分ではバイオレンスに取り憑かれているつもりはまったくないんだ。実際に映画の中でバイオレンスシーンと呼べるのは6分間程度。残りの90分くらいは会話劇だしね。ただ今日の世界では、TVやインターネットから毎日のように暴力にまつわるニュースが流れてくる。暴力について耳にせずに過ごすなんて不可能だ。普通の人はこの映画ほど惨い暴力に接することはないかもしれないが、誰もがすぐ近くにある脅威として認識している問題だと思う」
――もともとはスティーブ・ナイトの脚本から始まった企画だそうですね。
「ナイトの脚本に惹かれたのは、複雑にねじれた家族たちの物語だと思ったから。祖国を離れたロシア人マフィアが、まったく違う国で自分たちだけの世界を築こうとしている。しかもその世界が小さなレストランに過ぎないことが、とても面白いと思ってね。それに現実にある社会問題について描くことも、僕にとって新しい挑戦だった」
――ビゴ・モーテンセンが全裸のまま襲撃されるアクションシーンが強烈ですが、どうやって撮影したんでしょうか?
「もともと脚本にあったシーンだけど、人間がもっとも暴力にさらされる状況についてビゴと話し合って、全裸で演じるべきだと結論づけた。主人公が真っ裸だからスタントマンでごまかすわけにもいかず、すべてビゴが演じているよ(笑)。とにかく危険なシーンなので、準備に数週間を費やし、撮影には2日間かけた。緊張感ただよう現場だったけど、みんなで何度も大笑いする楽しい体験だったよ」
――肉体が傷つく描写は、執拗なほどにリアルで痛々しいですね。
「それは哲学的な、そしてアーティスティックな探求の結果なんだ。僕は“人間の存在”は物理的なものだと信じている。死後の世界だとか死後も魂が漂うだとか、そんな類の話はすべてファンタジーだよ。だから、いざ僕がバイオレンスを描こうとすれば、直接的なダメージや肉体の破壊に焦点を当てるのがノーマルに感じられるんだ」
――表に出ないマフィアの世界について、どこまでリサーチしたんでしょうか?
「関係者全員が綿密なリサーチをしたよ。素晴らしい書物やドキュメンタリーがあって、とても参考になった。ビゴも役作りに没頭するタイプの役者で、年老いたロシアンマフィアの囚人と直接会って話を聞いていた。彼らの話し方や、タトゥーの伝統にとてもこだわっていたんだ。ただロシアンマフィアの強固な絆はもはや古いものになりつつある。今はルールを無視した若い世代が台頭していて、だからこそ、この映画のマフィアは古い因習を守ろうとしているんだ」
――本物のマフィアの感想は聞けましたか?
「ああ、ロシア人の犯罪者から、誰よりも好意的なレビューをもらったんだ(笑)。それこそマフィア文化の描写ついても褒めてもらえて、実に光栄だったね」