インベージョン(2007) : 映画評論・批評
2007年10月16日更新
2007年10月20日より渋谷東急ほかにてロードショー
人間性を問う物語として生まれ変わったが、消化不良に
エイリアンの侵略を描いたSF小説の古典、ジャック・フィニイの「盗まれた街」の4度目の映画化。過去の3作品では、原作通りエイリアンは、密かに住民1人1人のクローンを作って成り代わった。しかし、今回のエイリアンはウイルスで、人体をそのまま我が物とする。人間の精神だけが変わる脚色で、劇中ロシア大使が語る「人間が争わなくなったら、それは人間ではない」といった人間性を問う物語として生まれ変わった。だが、その問いは、エイリアン・ウイルスの行動に納得できない点が多く、消化不良に終わっている。
当初、ウイルスを調べた科学者は、どんな苛酷な環境でも生きられる生命体だと驚く。ならば、生きるために人間の体を乗っ取る必要はない。なのに、最後まで侵略の理由も目的も明かされないため、ウイルスに支配されたベンが、抵抗する恋人キャロルに「我々は世界を平和にした。仲間になれ」と迫っても、とってつけたようで心に深く響かないのだ。
また、ウイルス感染後に眠ると支配されるという設定は、感染したキャロルが睡魔と必死に闘うスリリングな展開を生んだ。しかし、睡眠中に遺伝子が書き換えられるといった妙な科学的説明がなされ、かえって結末に疑問を抱かせる。
噂では製作のジョエル・シルバーと、オリバー・ヒルシュピーゲル監督の意見が対立し、「Vフォー・ヴェンデッタ」のジェームズ・マクティーグ監督が一部を撮り直し、完成に至ったという。アクション・シーンを追加して娯楽性を出したのだろうが、ヒルシュピーゲルに好きなように撮らせていたら、先述した“問い”が力をもち得たかもしれず、残念だ。
(山口直樹)