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コンパクトにまとめられたSFスリラーの佳作。「盗まれた街」の映画化作品を見るのはこれが二作目。もう一つは1978年バージョンで昔テレビの洋画劇場で見ていた。あの人面犬とラストの衝撃は今も忘れられない。ちなみに本作には人面犬は出てきません。
墜落したシャトルに付着していた微生物が一気に繫殖し人々は姿はそのままにどんどん乗っ取られていく。
何も知らない主人公の精神科医キャロルは次第に街の様相が様変わりしていくことに違和感を感じ始める。人々の身に何か異常なことが起きている。違和感から不安そして恐怖へと変わっていく中で世界では驚くべきニュースが報じられていた。
北朝鮮の核不拡散条約批准、インドとパキスタンの和平、身の回りの不穏な出来事とは対照的に世界中の紛争が歴史的解決を迎えたことを告げるニュースが報じられる。世界が異常な速度で平和的な状況に変わっていく。
これは果たして侵略なのか、それとも宇宙からのギフトなのか。
宇宙生物に乗っ取られた人間たちは記憶はあっても感情だけがない。もとの人間の記憶そのままに何かに操られてるかのようだ。彼らは意識が結合しており複数個体であっても他者という概念がない集合自我を持つ存在だった。だからこそ互いに争うこともない。
人類が何十年、何百年かかっても解決できなかった世界中の懸案事項が一夜にして解決されてゆく。まさにこれこそユートピア。しかしそれはけして人類の手によるものではない。
本来は人類が人類のままで己の意思で成し遂げていかなければならないものだろう。しかしそうするといったいどれだけの時間を要するのか。
ワクチンによって宇宙生物から解放された人間は感染時の記憶がないという。結局操り人形だったということ。操り人形がもたらした一時の恐怖と平和。
結局最後にはウィルスは駆逐され元通りの世界に戻る。そして元に戻ったとたん世界中では紛争が再び起こり始める。
キャロルは「この世界から犯罪や戦争がなくなればそれはもはや人間が人間でなくなった世界だ」というロシア大使の言葉を思い出す。そしてあの時彼らの仲間になっていた方がよかったのではないかという考えが一瞬だけよぎったのかもしれない。
コロナ禍の自粛で世界中の経済活動が停止した時、思わぬ副産物があった。自然環境が改善されて空はスモッグが減り今まで見えなかった星空が見えたり、海には姿を消していたウミガメやジュゴンが戻ってきたというニュースだった。
コロナウィルスは人間にとっては脅威かもしれないが、地球にとっては救世主なのかもしれない。