ショートバス : インタビュー
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が、新作「ショートバス」をひっさげ来日した。ニューヨーク・ブルックリンにあるアンダーグラウンドなサロン「ショートバス」に徘徊する、愛に迷える男女7人(悩みを抱えるゲイのカップル、オーガスムを感じたことがないセックスカウンセラー、孤独なSM女王など)の姿を映し出したピュアな愛の寓話となったこのアンサンブル劇は、無名俳優をオーディションで集め、ワークショップによって演技を高めたというインディペンデント精神あふれる意欲作(07年インディペンデント・スピリット・アワード最優秀プロデューサー賞受賞)。何よりも話題は、監督自らが日本公開版のためにボカシを入れたという過激なセックス描写。06年のカンヌやトロントの映画祭を仰天させたこの衝撃作について、ミッチェル監督が赤裸々に語った。(聞き手:佐藤睦雄)
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督インタビュー
「アンダーグラウンドの人間は不思議なパワーを持っている」
──セックスは好きですか?
「ええ。するのも好きですよ(笑)。でも、少し怖いかな」
──この映画を見終わったあと、不思議と好きな人に触れたくなりますね。
「それはいいコメントです。スキンシップは愛の表現として最も美しい形ですから」
──ブルックリンにある「ショートバス」というサロンのアイデアが興味深いですね。
「あれは、私がこれまで行ったいろんなサロンの集合体です。昔はマンハッタンのイーストビレッジ辺りにもたくさんあったんです。アート・コレクティブなサロンがエスカレートして、アバンギャルドなセックスをテーマにしたサロンまで登場した。けれど、不動産が高騰してマンハッタンから外へ出ざるをえなくなった。サロンとクラブの大きな違いは、サロンはホストの家みたいなもので、けっしてお金を取らないことです。カンパを募ることはあるでしょうが。ピカソやヘミングウェイらが集まったガートルード・スタインのパリのサロンは有名ですね。週末ごとに行われ、招待される側がまた新しい人物を連れてくる常に刺激的な空間だったわけです」
──そのサロンのホストがジャスティン・ボンドで、いい雰囲気を持っていますね。彼が経営するゲイバーは楽しそうだ。
「ええ、最高でしたよ。彼は実際に90年代には「フォクシー」というバーをやっていました。どれだけ奇抜な衣装を着られるか、クレイジーなコンテストがあったりして、そこでは面白いことがすべてが起こっていました。彼はニューヨーク・アンダーグラウンド界で“生きる伝説”と化したんだけど、やがてブロードウェイのショー(『Kiki & Herb』など)にも出て、トニー賞にノミネートされるまでになった。アンダーグラウンドの人間は不思議なパワーを持っています」
──主演・演出したオフブローウェイのミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で、あなたもそのパワーを得たわけですね。
「ええ。体制側は私たちを大変恐れていた。チケットも高騰して、(見てほしい)若者たちには手が届かない値段になった。あれをポピュラーにしたのは“映画”だったと思うんですね。ちょうどこの来日前に韓国を訪れ、『ヘドウィグ』以来6年ぶりにコンサートをやったんです。韓国ではあのショーをとても有名な映画スターが演じていたために7000人がキャーキャー言う人気ぶりで、まるでビートルズのように、ファンから逃げ回らなければならなかったんですよ」
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