図鑑に載ってない虫 : インタビュー
三木聡監督インタビュー
「“裏テーマ”が見つかると、そっちに向かって走っていかれるんです」
──小ネタがいっぱいで、クスクス笑ってしまうような作品ですが、普段、ネタ帳を付けていたりするんですか?
「電車の中などで思い付いたりすると、押入れに布団圧縮袋が何枚入るかとか(笑)、手帳にメモっています。寝る前に思いついたら、洗濯バサミで挟んだメモ用紙にも書き留めます。実際、そのネタ帳から何が拾えるかとなると別なんですけどね。どこかの偉い映画監督の『ある種の記憶みたいなものが映画を作る上での燃料になるだろう』という言葉を気にかけています。年も取ってきて、忘れっぽくなっていますから。今回も、結構“燃料”を使っていますね。いつも例に挙げているものが、バスター・キートンの『キートンの大列車強盗』。走っている機関車で、列車の床板とかどんどん燃やしていって機関車だけになってしまう、あんなイメージ(笑)」
──脚本はどんなふうに書き上げていったのですか。
「最初はある種の“ドラッグ・ムービー”をイメージして書いて、初稿が完成するまで2カ月ぐらいかな。『図鑑に載ってない虫』の原型が出来上がるまでには、さらに2カ月かかった。今回でいうと、『2人の男が探しものの旅に出るロードムービー』に決まって、それに繋がりそうなネタを放り込んでいったんですね。すると最後に、作品に通底する無意識的な裏テーマのようなものが浮かび上がってくる。『図鑑に載ってない虫』では『生きていても死んでも一緒じゃん』がキーワードですね。『亀は意外と速く泳ぐ』では主役の2人の名前をスズメとクジャクにした時点で、ファンタジーだと気づいたんで、最後は『シェーン』のように去っていったんです(笑)。要するに、最初に思っていたことと違う裏テーマが見つかると、そっちに向かって走っていける。『イン・ザ・プール』では『精神病ってそんな全員が治らなくてもいいんだ』が裏テーマでした。それに気づいてから、脚本に修正をかけていくんです」
──“箱書き”(登場人物の設定や話の枠組みを決めること)をするんですか?
「そうですね。ああでもないこうでもないと“箱”を並べて、裏テーマが見つかると流れが出来てくる。僕は普通のドラマツルギーにのっとった主人公の成長過程なんかには興味ないんで、グダグダな並びにして、裏テーマが見つかるのをじっと待つわけなんですが、下手すれば出てこない可能性もあるから、プロデューサーにとっては非常に不安なタイプの監督かもしれませんがね(笑)」
──菊地凛子さんと初めて会ったときはどんな印象でした?
「『この映画、どう?』って聞いたら、『面白いですね!』なんて軽いノリでした。でも、頭は金髪だし、眉毛はないし、『本当かよ!』と驚嘆するぐらいにインパクトはあって(笑)、惹かれるものはありました。彼女は堂々としていて、小手先の技術で芝居をするタイプではないですよね。役柄では自殺志願者なのに、芯が強そうなところはギャグになるんじゃないかと思って、プロデューサーとも『彼女、面白いよなぁ』とすぐ話が合いました」
──「イン・ザ・プール」でも組んでいますが、三木監督は松尾スズキさんに全幅の信頼を置いているんですね(注/TV 「時効警察」最終回にもエンドーの衣装で登場した)。
「松尾さんが持っている独特の味わいやキャラクターの良さもあるし、クリエイターや演出家としての視点も持っている方ですからね。まぁ、単純に松尾さんの芝居が面白いんですけどね(笑)」
>>「三木聡監督インタビュー(2)」に続く!