「旅行代理店でバリバリ働いていたのに・・・解雇されそう・・・」眉山 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
旅行代理店でバリバリ働いていたのに・・・解雇されそう・・・
母の言葉を守り抜くならば、仕事もおろそかにできないはず。しかし、河野咲子(松嶋菜々子)には母の看病と職業意識の間で葛藤さえしなかった。それに男の身勝手さをいかに許すかということと、結局は玉の輿を選び仕事を放棄する点を描いていれば満足できたかも・・・とは言っても、母と娘の絆、血の繋がった父親との再会、親孝行という最大のテーマには涙をこらえきれなかったです。
父親は早くに亡くしていたと聞かされていたのに実は私生児であったことのショックと、生きているならば父親に会いたいと母に懇願する演技をした子役の黒瀬真奈美。彼女の目が松嶋菜々子にそっくりなため回想シーンへの繋ぎが絶妙でした。ただ会ってみたいだけ。その想いは大人になってからも変わらず、父親には幸せな家庭があり、それを壊すわけにはいかないという理性が働いていることも、台詞が少ないにもかかわらず、“間”を大切にした見事な演出でキメていました。
その親子の対面での夏八木勲の演技力もさることながら、徳島で育っているのにシャキシャキの江戸っ子“神田のお龍”を演じた宮本信子が迫力満点でした。私生児を産んだという負い目はあるけど、曲がったことは許さない性質。人形浄瑠璃を観ながらその台詞を口から漏らすところや、娘にいつまでも言えない秘密を「大人になればわかる」といったことを目で訴えるシーンが最高でした。母として、一人の女として、凛々しさとか弱さを兼ね備えた人間を魅せてくれたので、単調な演技の松嶋菜々子をカバーしてお釣りがくるくらいです。
徳島の阿波踊りがメインとなるわけですが、もうひとつ、医大での献体というテーマがありました。医者という職業と、医者を育てるためのボランティア。遺族にとっては辛くて悲しい実情もあるけど、その遺志は命の尊さを強く訴えてきます。君(=天皇)のために命を捧げるよりは、未来の医者のために命を捧げたほうが・・・