「『スパイ大作戦』の前後編を思わせる、見所のバランスの良いスパイアクション映画の秀作」M:i:III Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
『スパイ大作戦』の前後編を思わせる、見所のバランスの良いスパイアクション映画の秀作
トム・クルーズの代表作となる「ミッション:インポッシブ」の第三作は、超絶したアクションシーンを誇示しながらも人間ドラマに精彩を欠く前作の反省からか、アクションとドラマのバランスの良い娯楽作品として充実した映画になっています。特にテレビシリーズ『スパイ大作戦』に愛着と思い入れがある個人的な視点から、その原作の長所を復活させてくれたことが嬉しく、採点にも配慮してしまいました。この軌道修正はアレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー、J・J・エイブラムスの脚本が優れているのに加え、監督エイブラムスの基本に忠実な演出、ダニエル・ミンデルの簡潔にして要点に集中した撮影、そしてテレビ版のラロ・シフリンの音楽を生かしたマイケル・ジアッキーノのアレンジまで行き渡っています。それでいてアクションシーンの編集も良く緊張感の醸成もあり、ハイテンポのサスペンスタッチでまとめ上げた快作でした。よく126分に収めたと思います。また変身マスクの製造シーンや声を似せるためのシート制作過程も描かれていて、この丁寧さにも好感を持ちました。
先ずジュリアと言う女性が人質となりイーサンが追い詰められる緊迫感とサイコタッチのプロローグからタイトルバックになる導入部がいい。するとジュリアがイーサンの婚約者と分かるパーティーシーンで、結婚を機にIMFの諜報員から訓練教官になったイーサンに上司ジョン・マスグレイブから連絡が入る。元教え子で優秀と認め、目をかけていた女性諜報員リンジー・ファリスの救出指令だった。このベルリンの廃工場のシークエンスが素晴らしい。拉致されていた建物から苦難の末リンジーを救出して一安心と思わせてからのヘリコプターによる攻防戦が見事。風力発電所のロケーションを生かしたカメラワークが的確で分かり易く、このスリル感とリンジーの頭に仕組まれた小型爆弾の処理に時間を要す絶体絶命のサスペンスが合わさり、緊迫感が凝縮されています。またこの最初のクライマックスで言えるのは、イーサンとチームを組むルーサ・スティッケル、ゼーン・リー、デグラン・ゴームリーの各キャラクターが役割として奇麗に組み込まれている脚本の良さ、演出の配慮、役者の演技です。ルーサー役のヴィング・レイムスの前作よりある存在感、ゼーン役のマギー・Qの演技も良く、デグラン役のジョナサン・リース=マイヤーズも抑え気味ながら堅実でいい。マイヤーズ(ウディ・アレンの「マッチポイント」の好演)としては役不足感もありますが、これはキャスティング全体の配慮でもあるでしょう。
このキャスティングで最も評価に値するのが、闇商人オーウェン・デイヴィアンを演じた名優フィリップ・シーモア・ホフマンでした。主演のトム・クルーズを引き立て、悪役の異様な雰囲気と憎々しさ、そして演技力のある芝居と文句なしの共演でした。クルーズの演技もこの相乗効果もあって、更に良くなっています。このクルーズとホフマンが絡むバチカンの慈善パーティーでの拉致作戦も見応え充分で、イーサンチームのメンバー4人が其々に侵入経路が違い、役割分担の面白さと精密さがあります。下水道で変装マスクを製作、トイレで拉致して直ぐにデイヴィアンの声をコンピューターにインプットする緊迫のシーン。これぞ『スパイ大作戦』の醍醐味です。またマンホールに発信機を付けたのが、ここにメンバーが乗った高級スポーツカーを駐車して脱出するためと分かり、リーがドレス内の足に隠していた遠隔スイッチを取り出すサービスショット。カッコいいスポーツカーを爆破させるのを惜しむリーの台詞があってカメラがパンするとイーサンがマスクを剥がすカメラワーク。爆破シーンから運河を走るボートのシーンに流れる音楽も見事なシンクロで、ここで丁度前半の締めの終わり方。テレビドラマなら前後編の大作の趣でした。
ストーリーとしては、後半最初にIMF局長セオドア・ブラッセルとイーサンの上司ジョン・マスグレイブの何方かが怪しいと匂わせています。この伏線があってデイヴィアン護送の飛行機内のシーン。プロローグと対になる立場が逆になって、イーサンがデイヴィアンを上空から落とそうと窮地に追い詰めます。前半のヘリコプターシーンでも見せた画面が横に大きく揺れるカットのピントがあった撮影の上手さ。カラーフィルムのパンは色が濁る特性から、この時代の技術の高さにも驚きました。そこから護送車にデイヴィアンを移し走行中、リンジーがイーサンに託したデーターが明かされ、闇組織と裏で繫がっているのが何と局長のセオドアと知ります。それを裏付けるかのような戦闘機からのミサイル攻撃にデイヴィアン救出の特殊部隊が襲い、この大掛かりなアクションシーンと迫力には、前作と共通するハリウッド映画らしいアクションシーンの凄みがあります。危険を顧みず、少しも手を抜かず妥協しないトム・クルーズの役者魂。これがあって逃げ延びたデイヴィアンが冷ややかに見下ろすショットに、ホフマンの太々しさが効果的に表れています。
デイヴィアンに逃げられ、復讐の代償として妻ジュリアを仕事場の病院から連れ去られる。病院に急ぐイーサンとデイヴィアンの手下の魔の手が襲うカットバックは映画表現ならではの緊張感です。しかもラビットフットなる情報を48時間以内に返却するよう脅迫の電話を受け、同時に独断でデイヴィアンを拉致したことを怒るセオドア局長に拘束される絶体絶命の境遇に陥るイーサン。観る者が思い込まされるセオドア局長のイーサンを貶す台詞が、却って引っ掛けではの憶測を生む微妙なシーンにもなっています。ここで上司マスグレイブがイーサンを泳がせ上海まで行かせる展開の面白さと、映画クライマックスへの期待感を持たせるストーリー構成の上手さ。
上海ではマスグレイブの指示でメンバーが全員揃い、再びチーム力でラビットフットを略奪するアクションシーンを再表現。高層ビルの間を飛行してビルのガラス張りの天井に留まるアクションに、ラビットフットを盗み飛び降りパラシュートで着地を企むも風に煽られ窓を突き抜け室内に、更に飛ばされ恒例の地面すれすれで止まるショット。円錐形のラビットフットが道路に落ちて転がるシーンではカーアクションの見せ場を作るも、ゴームリー運転の車と追跡する車のカーチェイスのカメラワークが雑で、状況が分かり辛いのが唯一の欠点でした。上海ロケの時間制約が影響したのだろうか。ギリギリ5秒前にデイヴィアンに連絡が取れて指定の場所に行ける安堵感の後に、IMF本部のマスグレイブに電話し発信機装着の確認を取るも、返事は“グッドラック”のみ。セオドア局長が帰って来たメンバー3人に事情聴取のため拘束するカットを挟んで、睡眠薬から目覚めたイーサンの前でジュリアが撃たれる衝撃の場面。プロローグの後半を見せて、デイヴィアンが消えるとそこに何とマスグレイブが現れて種明かし。ここまで正体を隠したマスグレイブ役のビリー・クラダップはクルーズより6歳年下で上司役を整えるも、ホフマンと同じ悪役で比較される点で割りを喰った形になりました。それでもジュリアの顔を見せてマスクを剥ぎ、ここで二つ目の種明かしをする展開の面白さ。これを予測できる人は、相当の推理小説マニアでしょう。勿論IMF幹部のマスグレイブが仕組んだ策略であるし、巧妙な仕掛けでした。でもリンジーが残した証言はデイヴィアンと繋がっているのをセオドア局長と認定していたから、マスグレイブの杞憂だったのです。更に政府と軍による内政干渉から覇権主義に至るアメリカ国家に対する批判が込められた脚本の内容と分かります。しかし、イーサンにとっては教え子リンジーを失い、今改めて妻ジュリアを救いに行かなければならないことの方が重要です。マスグレイブの隙を狙って失神させ、ジュリアの声が聴こえた携帯電話の通話先をIMF本部の調査室担当?のベンジーに調べてもらい、そこまで走って行くところもいい。ラストの対決は、頭に小型爆弾を入れられたイーサンが発動して不利になる中での殴り合いのバトル。ジュリアが椅子に縛られて身動きが出来ない状況でのイーサンの力を出し切った感の演出もいい。捨て身で重なって道路に転げ落ち、偶然にもそこへ車が迫る演出も定石ながら、決着としては納得の演出でした。長さも丁度いい。そしてイーサンが電気ショックで仮死状態の時にマスグレイブが現れピンチを迎えるも、看護師として度胸が据わったジュリアが即興の銃使いでマスグレイブを仕留める。妻ジュリアを拉致し苦しめたデイヴィアンを夫イーサンが倒し、夫イーサンを裏切ったマスグレイブを妻ジュリアが撃つ。互いの敵を討つ相思相愛の夫婦の絆と仲睦まじさ。ジュリア役ミシェル・モナハン、そしてリンジー・ファリス役ケリー・ラッセル共に30歳女優の熱演も印象に残りました。
派手なアクションとスリル満点の危機突破のサスペンス、そして登場人物全てが有機的に物語に活かされた脚本のまとまり。撮影、音楽、編集と、アクションの派手さを中和する安定感のある娯楽スパイアクションの秀作でした。