「バカ高校生 鑑賞」時をかける少女(2006) JIさんの映画レビュー(感想・評価)
バカ高校生 鑑賞
このレビューで、便宜的に「バカ高校生」「バカ高校」といったワードを用いる。
「バカ」という表現は不適切にも思われるかもしれないが、作中の前半部に主人公のナレーションで、彼女が「バカ」で不器用であることが説明される。これは制作者が、作中の高校生をバカとして見てかまわないという目くばせだと私は解釈したので、不真面目、短絡的、怠惰な高校生像をバカと表現させてもらう。
この作品は、バカな高校生が、恋愛や将来の展望に悩む様を、タイムリープという要素を絡めながら描いたもの。
今に満足していた少女が魔女おばさんの励ましや、チアキとの別れを経て、「前を見て」、未来に向かって生きることを決意する。ポジティブなストーリー。
短くしたスカート、だらしないネクタイ、自転車の交通ルール違反など、バカな高校生である。実写であればこんなバカな人間など見るに堪えないが、アニメ―ションという表現を用いていることで、一種の人間臭さの魅力としてバカさを楽しむことができる。アニメであることで、作り手が客観的な視点で高校生を観察し、表現しようとしたことを感じさせ、安心感がある。一歩引いた視点で彼らを鑑賞することができる。
この映画の良さは、まず、ミメーシスの快楽(現実のらしさが表現された創作物を観る快楽)である。素晴らしく鋭い現実世界への観察眼に、度肝を抜かれた。人物の動き、小物などディテール、細かいところに、現実らしさが組み込まれている。キャッチボールの仕方、教室に落ちているゴミ、バカな試験勉強の仕方。制作者のセンスがなければ描かれるはずのないディテールは、アニメーションならではの楽しみといえるだろう。誇張された表現はアニメーションならではのユーモアとして楽しめる。ボールが顔面にぶつかるとか、急に速すぎる早歩きとか。
画のセンスも輝いている。タイムリープ中の視覚効果はとても良い。他にも、小物のデザイン、モチーフのチョイス。
時間が止まった時の周りの景色のカット群もいい。止まっていると新鮮に見えるものシリーズでシンプルに面白がらせてくれる。
音楽が良い。有名クラシック曲を引用しているが、曲の構造や意味がストーリーと響き合っていてシーンを強調する。(クラシック音楽に詳しくないので、それ以上は言えないが。)クラシック曲使いでいうと、同監督の『劇場版デジモンアドベンチャー』(1999年)を連想させられる。
無音の使い方は好き。印象的な、マコトがひたすら走っている長回しのカットでは、徐々に環境音を消していき、マコトの息遣いだけにする。右が過去で、左が未来という構図が分かりやすくて素敵だと思う。
タイムスリップが絡んでいて、状況がややこしい所はある。また、タイムスリップで生じる矛盾も挙げればおそらくキリがない。だが、時間を超える話は、必ずなにかしら矛盾が生じるので、そこはほどほどに目を瞑るべきだと考えている。
描写がリアリスティックだと、反って現実との差に目が行きがちだが、アニメらしい自由な表現を交えていることで、ある程度違和感が緩和されていると思う。