「ほのぼのとしたサスペンス」なまいきチョルベンと水夫さん よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ほのぼのとしたサスペンス
北ヨーロッパの孤島。美しい島の風景の中で、子供たちは、それぞれのお気に入りのペットと遊ぶ平穏な毎日を送っている。そんなところへ、漁師が捕まえてきたアザラシを貰い受けるところから、子供たちの日常に少しずつ緊迫したものが近づいてくる。
様々な出来事を通じて、子供たちの動物に対する眼差しに変化が訪れる。可愛い遊び相手。子供の力でも支配できる相手。そのような対象として彼らが見てきた動物たち。しかし、アザラシをやっぱり返してほしいと漁師が言ってきたのは、そのアザラシが少なくない金額と交換できる商品価値を持つからだった。そして、他所の島から渡ってきたキツネが、ペットのうさぎを殺し、羊を傷つける事件が起きる。当初、犯人に仕立て上げられたのは、主人公が飼っているセントバーナード犬の水夫さんだった。家畜を傷つける犬を生かしてはおけないと、父親は、その犬を処分する考えを娘にしなければならない。家族の間に重い空気が流れるなか、主人公は、犬が口を利けて自らの無実を説明出来たらと思うのだった。
ところが羊飼いがキツネを発見して、水夫さんの無実を確信する。しかし、すでに水夫さんは、銃を携えた父親に森の奥へと連れて行かれた後だった。果たして、水夫さんに向けて銃を打つ前に、真実を父親に伝えることが出来るのか。このほのぼのとした子供たちの物語の中には、このようなサスペンスが随所にちりばめられており、観客を飽きさせることがない。
小津安二郎の「お早よう」と似たような構造を持つ物語。そしてその語り口もまた小津的である。
子供たちは、従順な遊び相手としか見ていなかった動物たちに、一回限りの生を見出すようなる。そして、苦労して稼いだお金でアザラシを取り戻すことと、そのアザラシを海へと戻すことの間には、アザラシへの愛が貫かれ、決して矛盾はないのだと考えることのできる存在へと、子供たちは成長するのだ。この子供の成長ぶりを、映画は淡々と、素朴な風景の中で自然に起きた出来事のように描いている。