「確かにこれを観てボクサーになろうと思うよりは映画監督になりたいと思ってしまう作品」ロッキー Theo5さんの映画レビュー(感想・評価)
確かにこれを観てボクサーになろうと思うよりは映画監督になりたいと思ってしまう作品
魅せるシーンの繋ぎ方や絶妙なカットのタイミングなど、
本当に1977年に公開された映画なのが疑いたくなるぐらいの完成度の高い映像技術が目立つ映画。
それなのにこの映画は人の魅せ方がとても上手い。
基本的には癖のありまくる粗暴な登場人物しか出てこないのだが、
暮らす街での彼等なりの葛藤や哀愁が終始映像内に流れ溢れていて、
同じく粗暴だが心優しいロッキーと一緒に登場人物達の声を聞いているような感覚に陥る。
そんなロッキーの転機にそれを利用しようと群がってくる人達に遂にロッキーの感情が爆発して、
秘めていたロッキーの中のくすぶっていた怒りが吐露される感情の動きの描き方が情緒的に素晴らしい。
映像があるのだからセリフなんていらないよと言っているかのような、マネージャの老人と最後にロッキーが和解するシーンはとても印象的だった。
エイドリアンの存在も秀逸で、イタリアの種馬が見初めた相手がブランドの派手なギャルではなくて、
内気で地味なペットショップ店員というのが最初は違和感があるのだが、だんだんとそれが無くなっていくのがとても心地よさを与えてくれる。
内気と無口のカップルだなんて言いながら、ベラベラと喋りまくるロッキーはおそらく本当に無口な人間なんだと思う。
そんなロッキーがエイドリアンの心を開こうと頑張る姿が微笑ましく、
そんなロッキーに恐れながらも少しずつでも近寄っていこうとするエイドリアンの2人の構図が何とも言えない情愛を感じる。
ここまで古い映画は雑な作りが目立って、ちっとも洗練されていないだろうと思い込んでいたが、
現在の映画と比較しても、映像美こそ劣るものの、カットの手法やセリフで説明する場所しない場所の選択の演出などは引けを取らないどころか、優れているとさえ感じれる作品だった。