乱のレビュー・感想・評価
全6件を表示
インパクトNo.1、楓の方…
一文字家に一族を滅ぼされながら長男に嫁いだ楓の方。積年の恨みを家督相続に付け込み、到頭滅ぼすことに。やり方はエグいが女は強い。原田美枝子の怪演が光る。それに引き換え、男どもは権力争いに執着し、情けない。因果応報、自業自得。ときおり歌い出す道化役ピーターが的確な風刺をしたかと思えば、煩わしいと思うこともあり、狂った時間が長いからか仲代達矢の演技にも食傷気味。城を燃やし、人馬大合戦は黒澤映画スケールならではだった。
戦いとは権力者同士の戦いと言うことを見事に描いていると思った。これが武士が行ってきた出来事だ
火山の砂走りの様な所に城を建てて、そこを舞台に見立てて、大掛かりに演じさせた舞台劇と言えよう。大変に素晴らしい芸術と言える。
但し、大殿の年齢が70歳以上と言うのが、やや無理があると思う。リヤ王なのだから、仕方ないが主人公をもう少し別の若い役者さんに演じさせても良かったのではないかと思う。黒沢監督の狙いかもしれないが、舞台上で演技をしているようにどうしても見えてしまう。声のトーンや演技が大袈裟過ぎる様に感じた。まぁ、正に、黒沢監督の狙いだと思うが、生活感が全く見えない。城以外建物が何もない。こんなところでは、農業なんて営めないと思う。狙いだと思うが。しかし、合戦があまり迫力が無いと思った。エキストラが右に行ったり、左に行ったり。何処かの国のマスゲームを見ているようだった。
しかし、戦いとは権力者同士の戦いと言うことを見事に描いていると思った。これが武士が行ってきた出来事だと思って間違いない。狭い日本を家族で分け合えなくて、自らの命まで落とす。世界には出ていける訳が無い。リヤ王が島国イギリスの話であり、同じ様な事をイギリス(イングランド)もやっているが、イングランドは言うに及ばず、大英帝国である。日本はそれを真似たが、沖縄は米国に占領され、北方領土はロシアから返してもらえない。島国のままである。
サムライジャパンと比喩するのは少し無理があると思うが。クール・ジャパンとかね。かっこ悪いと僕は考える。
2024年9月5日 リア王をみた関係でレビューを一言。
『リア王』を見る限り於いて、『仲代達矢』さんよりも『勝新太郎』さんの方が似合うのでは?と感じた。たがしかし、『勝新太郎』さんが降板したのは『影武者』である。
巨匠75歳、自虐の詩w
シェイクスピアを下敷きにした時代劇、地位の逆転と相互不信による自滅に至る物語、女にそそのかされ正気を失い道を誤る男。蜘蛛巣城と本作には多くの共通点があります。では、蜘蛛巣城にあって本作にないものは…。
①主人公と監督の若さと勢いが感じられない。
蜘蛛巣城は37歳の三船俊郎&47歳の監督による、下克上で権力を奪取する物語。若さ、反逆、暴発、夢と野望の挫折を描く。一方、本作は53歳の仲代達矢&75歳の監督による、権力の座から引退する物語。年寄、後悔、権威、不和、懺悔と和解を描く。
②女性たちの恐ろしさが足りない。
本作のヒロイン達、原田美枝子(27)&宮崎美子(27)の二人では、山田五十鈴(40)&浪花千栄子(50)の二人の、この世のものとは思えない恐ろしさにはとうてい敵わない。
③幽玄、夢幻を感じない。
阿蘇の大自然の中でのロケシーンで始まる本作。大自然の中でちっぽけな人間共が縁組みだの家督だのごちゃごちゃやってるのが、みみっちく見えてしまう。その他にも太陽光の下でのシーンが多く、人物の内面を凝視するというより、外面を凝視してしまう。
70歳の要介護老武将(仲代達矢)、介護者狂阿弥(ピーター)、忠臣(油井昌由樹)の3人に比べ、息子3人の描き方が薄っぺらい。太郎も三郎も二人とも狙撃され簡単に死んじゃうし。死に方が全然ドラマチックじゃない。一番面白いはずの次郎の内面には迫らないし。本来は息子3人の相互不信といがみ合いがドラマとして最も面白いはずなのに、じいさんにばかりフォーカスしてもつまらない。ただ、監督が自分の分身として小汚いジジイを創造したというのは、大変面白いと思います。過去の悪行の記憶と周囲の裏切りに苦悩し、狂気と正気を行ったり来たりする主人公の姿は、相当自虐的な自画像に見えます。天皇と言われた巨匠も、内心自責の念を抱えていたということでしょうか。
あと、最後に映画のテーマを忠臣の口を借りてセリフで説明されるのもがっかり。冗長かつ退屈に感じてしまう大作観念映画でした。ただ、監督はもう観客を喜ばせようなんて思ってないだろうことは伝わります。「人類への遺言」という言葉が示すとおり、監督はどこか遠くの方を見ている、あるいは自分だけを見ているようで、凡人の自分にはちょっとよく分かりませんでした。テレビにばかり夢中になっている日本の観客に監督は愛想を尽かしていたのかも知れません。海外では多くの賞に輝き評価の高い本作ですが、国内の興行収入では、ビルマの竪琴、ゴジラに次ぐ第3位、16.7億にとどまり、26億の製作費は回収できなかったようです。
映像は確かに凄いが中身が薄い。私は黒沢明は余り評価していない。娯楽...
映像は確かに凄いが中身が薄い。私は黒沢明は余り評価していない。娯楽映画は良いが、深刻な材材になると描き方が途端に青臭くなるから。女の描き方も下手だし。本作でも原田美枝子のシーンはこちらが恥ずかしくなるくらいの演出の下手さ。原田美枝子もこの頃はまだまだで「蜘蛛巣城」の山田五十鈴の凄さには到底及ばない。草原でピーターが踊るシーンもぎこちない。もっとどろどろした人間ドラマに出来たのに、絵としての美しさを優先したのかな。まあ、それも映画の一つのあり方ではあるけど、私には燃える城を背景に虚ろに歩く仲代達矢よ映像しか目に残っていない。
骨肉の悲劇…巨匠黒澤のライフワーク!
Blu-ray(4Kデジタル修復版)で2回目の鑑賞。
初めて観たのは高校生の頃。DVDを購入しました。仲代達矢のふとすると吸い込まれそうな目力に抵抗出来なくなり、狂ったまま荒野を彷徨する秀虎の姿に呆気に取られました。
一文字三兄弟の血で血を洗う後継者争いは、戦国時代の習いとは言え、結局誰も報われななかった結末に、虚しさとやるせなさを感じて、現代にも通じるような内容なだけに、人間社会の無情に呆然としてしまったことを覚えています。
終始、熱量に圧倒されっぱなしでした。大規模なセットを組んで撮影された合戦シーンはもちろん、一族の骨肉の争いの果てに訪れた凄惨な悲劇に息を呑みました。スペクタクルシーンがもたらす迫力と、登場人物たちが繰り広げるドラマがもたらす人間的な迫力に満ちていました。心を鷲掴みにされました。
楓の方の情念に震え上がりました。
一文字家への恨みを胸に秘め、秀虎引退をこれ幸いと、その息子たちを巧みに操縦し、一族を滅亡へと導きました…。最期のセリフが頭から離れません…(泣)
「怖い女だな」と思うと同時に、もしかすると歴史は、女が動かしているのかもしれないなと思いました。女の強い想いほど、恐ろしいものは無いのかもなぁ…。
黒澤明監督が10年以上の歳月を掛けてつくり上げた執念の成せる業、渾身のライフワーク…。監督のフィルモグラフィーを総括し、これまで語られて来たテーマの全てが籠められている、集大成のような作品だなと感じました。
※修正(2021/09/11)
馬鹿な親鳥だよ
映画「乱」(黒澤明監督)から。
作品のラストシーン、こんな台詞がある。
「神や仏は、泣いているのだ!何時の世にも繰り返す、
この人間の悪行。殺し合わねば生きていけぬ。
この人間の愚かさは、神や仏も救う術はないのだ!
泣くな、これが人の世だ。人間は幸せよりも悲しみを、
安らぎよりも苦しみを、追い求めているのだ!」
たぶん、監督が伝えたかったことの一つだろう。
しかし私のアンテナには、途中、ピーター演じる「狂阿弥」の
こんな台詞が妙に引っかかった。
「蛇の卵は白くて綺麗だ。小鳥の卵は、シミがあって汚ない。
鳥は汚ない卵を捨てて、白い卵を抱いた。
孵った卵から蛇が出て来た。鳥は蛇を育てて、蛇に呑まれた」
我が子を信じ、捨てられ、殺されそうになった父親(秀虎)が、
狂った挙句に「ここはどこだ? 俺は誰だ?」と叫ぶと、
「狂阿弥」は「馬鹿な親鳥だよ」の言葉を投げ捨てる。
この例え話が、私は気に入った。
世の中には「うちの子に限って・・」と声高に叫ぶ親がいるが、
親バカも甚だしいケースを良くみかける。
子どもを育てるということは、楽しいことであるが、
非常に難しいということも、理解しておいて欲しい。
一番信じていた者に裏切られることほど、辛いことはない。
いつの世も、親子の関係は、切っても切れない課題なんだろうなぁ。
全6件を表示