「破滅と美の交響曲 黒澤の半自伝的映画」乱 エライさんの映画レビュー(感想・評価)
破滅と美の交響曲 黒澤の半自伝的映画
視力の衰え、自殺を試みた絶望の淵から、黒澤明がその全てを賭けて創り上げた映画『乱』
日本映画界から追放された巨匠がフランスの支援を受け、最後の作品となる覚悟で挑んだこの大作には、時代を超えて響き渡る慟哭と美が宿っています。
物語の核は、愛する息子たちに裏切られた老人の破滅。けれど、それは単なる物語ではなく、黒澤自身の人生と絶望が刻まれた傷跡でもあります。
序盤、「三の城」の戦闘シーンは、息を呑むほどの構図と動きでスクリーンを彩ります。その完璧さは、後にマーティン・スコセッシが『ギャング・オブ・ニューヨーク』で模範したと言わせたほどだ。そして、黒澤を“先生”と崇めるスピルバーグの「プライベート ライアン」が未熟な映画にすら思える。
だが『乱』が真に恐ろしいのは、主人公が正気を失い狂気に飲み込まれる後半部分。その圧倒的なエネルギーは観る者を呑み込み、エンドクレジットが流れても席から立ち上がれないほどの衝撃を与えます。
原田美枝子が斬首されるシーンでは、黒澤映画の象徴とも言えるダイナミズムがさらに洗練され、美しい残酷さとなって胸に刻み込まれるでしょう。
この映画を絶賛したのは世界の名だたる批評家たちの中でも、最も辛口で知られるロジャー・エバート。彼が最高得点をつけざるを得なかった、『乱』に対する彼の批評もまた素晴らしい。
これは単なる映画ではなく、普遍的な破滅の物語であり、芸術の極み。
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