「岩井俊二監督の才能を強く感じます 21世紀の市川崑というべき才能です」Love Letter あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
岩井俊二監督の才能を強く感じます 21世紀の市川崑というべき才能です
死別した恋人
忘れられない恋
同性同名の男女
瓜二つの二人の女性
博子の恋は朝日の中で成仏しました
その恋人が本当に愛していた女性
彼女には伝えることができずにいた想い
後悔し続けていた彼の想いが伝わったのはなぜ?
それは博子の彼への深い愛が合ったからこそです
彼が博子を愛したのは彼女と瓜二つだったからで、彼が本当に愛していたのは、似ていた女性の樹の方だったのでしょうか?
可哀想な博子
樹の代用に過ぎなかった?
彼が死後に本当に愛した女性へのラブレターを届けるきっかけ作りに、結局のところ利用された形になってしまっただけ?
そうではないと思います
確かに彼が博子を愛したきっかけは、樹に似ていたからかも知れません
ですが、その時目の前にいる博子自身を真剣に愛していたのかも知れないのです
そうだったからこそ、本当に自分を見つめて愛されたと感じられたからこそ、博子も彼を忘れられ無いほどに愛したのです
そのことをお山に昇る美しい朝日を浴びて博子は実感したのだと思います
あの温かい眩しい朝日は、博子への彼の眼差しだったのです
お元気ですか?私は元気です!
大声で伝えるラブレター
手紙で送ったラブレターと同じ文言です
ですが伝えたいメッセージの力点は違うのです
声は元気を、手紙はお元気ですか?なのです
本当に元気になったことを大きな声で伝えたのです
図書カードの裏のスケッチ
誰にでもある青春の一ページ
本の題名は失われた時を求めて
父を肺炎でなくした樹
自分もまた風邪をこじらせてしまいます
父との死別は彼との別れと結びついた記憶です
気丈に振る舞って笑顔を見せていても父と彼の両方を失った心の衝撃は強かったのです
それが心の傷になっていたことを、彼女はその図書カードで知ります
その彼女の心の傷がみるみるうちに癒えていくのを彼女は感じるのです
心の片隅にあった肺炎の影のような傷は、その青春の一ページであったのです
失われた時を求めて
青春の一ページだよ
いい思い出だよ
彼からの数年越しのメッセージです
博子と樹、二人の心の影は晴れ渡ったのです
新しい恋も始まるでしょう
博子だけでなく、樹もまた新しい恋に向けて歩み始めていくでしょう
春はもう目前です
名作です
タイトルバックのごく小さな英語表記も新しい映像感覚で素晴らしいです
雪の神戸、冬の小樽の寒むげなシーンが二人の主人公の心象風景を的確に表現しています
どこか日本離れした二つの港町の高台の光景
篠田昇の美しいカメラは光線と空気まで捉えています
岩井俊二監督の才能を強く感じます
21世紀の市川崑というべき才能です