劇場公開日 1957年6月19日

間違えられた男のレビュー・感想・評価

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3.5娯楽系サスペンスからはかけ離れた実録ドラマの決定版

2020年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「知りすぎていた男」と「間違えられた男」はヒッチ作の中でも間違えられがちな二大邦題として知られる。でも実際に見比べるとジャンルは根本から異なり、前者が娯楽サスペンスなのに対して、本作はリアルな実録ドラマのような構成。それゆえ、いつものように油断させておいて観る者をあっと驚かせる演出は、ここには皆無だ。私たちはただ、冤罪のために誤認逮捕されてどん底に落ちていく男の人生を見つめ続けねばならない。その雰囲気を壊さないためなのか、カメオ大好きなヒッチコックも、今回ばかりは冒頭でストーリーテラーとして顔を出すのみ。

ただしこんな中でも、不意にカメラが留置所の小さな「覗き窓」をスルリとくぐり抜けたり、ちょっとしたカメラの動きが感情の揺れを捉えたり、随所にキリスト画や十字架といった宗教的なモチーフが盛り込まれるなどの趣向が興味深い。ヒッチコック作品の中でもちょっとした異色作として受け止めうる一作だ。

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牛津厚信

4.0ヒッチにしてはハードな造り

2024年5月1日
PCから投稿

フォンダ先輩は当然ながら圧倒的な完璧演技ですが、スチュアート、グラント両先輩みたような軽妙洒脱、都会的洗練とは全く違う、ひたすら深刻な印象です。
先輩のキャラクターに加えて、実話の映像化にこだわり過ぎて全体の構成が壊れてしまった、とヒッチも認めているようです。
確かに並みの監督なら十分面白い作品ですが、ヒッチファンがヒッチを期待するといつものサスペンスなのに華やかな独特のタッチは見当たらず、フィルムノワール的な陰鬱さが目立つ作品に感じる点は否めません。

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越後屋

3.5【免罪の恐ろしさを描いた作品。夫が自らの歯の治療のために、愚行に走ったと思ってしまった妻の精神が崩壊していく過程も、恐ろしき作品である。】

2022年10月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

幸せ

■妻、ローズの歯の治療のために借金をするために保険会社を訪れたマニー(ヘンリー・フォンダ)。
 対応した窓口係は彼の顔を見て驚く。
 以前保険会社を襲った強盗に瓜二つだったのだ。
 彼は警察に連行され、覚えのない罪を背負わされる。
 何とか保釈にこぎつけたマニーは、妻と共に無実を証明しようと奔走するが…。

◆感想

ー 本作は、冒頭にアルフレッド・ヒッチコックが登場し、”今作は事実に基づいた作品である”と語るシーンが印象的である。-

・冤罪は最近では少なくなったと思いたいが、今作発表時代や、日本でいえば戦後の幾つかの免罪事件で、その後数十年をかけて無罪判決を言い渡された事件が脳裏に浮かぶ。

・今作でも、妻の歯の治療費用を借りるために、銀行を訪れたマニーが、真犯人と酷似しているという銀行員の”主観”に依って、勾留され、果ては裁判にまで縺れ込む。
ー 妻の心労や、如何に・・。精神に異常を来すのも良く分かる。警察の捜査方法の杜撰さも含めて・・。-

<今作は、今までにないアルフレッド・ヒッチコックの、当時多発していた、警察による杜撰な捜査による冤罪をテーマにした作品である。
 全く、他人事ではない視点で、今作を制作したアルフレッド・ヒッチコックの慧眼に、頭を垂れる作品である。>

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NOBU

4.0シリアスを極めたサスペンス映画のヒッチコックの無駄の無い的確なモンタージュ

2021年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

アルフレッド・ヒッチコック監督が、1953年のニューヨークで実際にあった冤罪事件を忠実に再現したサスペンス映画。実録に徹しているため、何時ものシニカルなユーモアは無く、シリアスな演出がより身近な恐怖心を誘い込む。それは恒例のヒッチコック監督登場の逆光を受けたシルエットのショットから、ラストの主人公家族の事件後の状況を説明するショットまで一貫している。テレビシリーズ「ヒッチコック劇場」を彷彿とさせる演出タッチだが、映画作品では珍しく特異な存在といえる。原作・脚本にルイス・マイルストン監督の「西部戦線異状なし」「雨」のマクスウェル・アンダーソンという人が参加しているのも、他に組み合わせが無いだけに目を引く。

この映画の見所は、カメラの視点が主人公クリストファー・マニー・バレストレロの視点の先を克明に描き、彼の追い詰められた心理をそのショットの積み重ねで表現しているところだ。見覚えのない事件で逮捕されてから、彼が何を注視して事の現実を受け止め怖れ慄いたかが分かるようにモンタージュされている。例えば、逮捕され車で運ばれるところで、両脇の警官に振り向くところ。無表情な横顔に、ただ葉巻を喫うショットなのだが、もうそこに彼の心理が込められている。初めて警察署に連れられてみる警察署内部の様子、独房に入れられて改めて見る椅子、洗面台、天井の隅、そして鉄格子。続く拘置所に向かう前の手錠のアップに、護送車の中の手錠を填められた手から他の逮捕者の汚れた革靴にパンするショット。それらは、無機質な物をただ映したショットに過ぎないが、主人公演じるヘンリー・フォンダの精気の無い戸惑いの表情の演技とモンタージュされることで生まれる基本的な映画演出の妙味になっている。その為、状況説明の場面以外はヘンリー・フォンダの顔のアップショットが多く、彼の計算された表情演技が作品を支えているし、観るものを同時体験させるに至るサスペンス映画になっている。映像の客観性と主人公の主観がバランスよく配置されたヒッチコックの力作と評価すべき映画であろう。また裁判シーンでは、オコナー弁護士が無効審理を要求し裁判のやり直しをするが、緊張感のない検事や落書きに熱中する者、時間を持て余す姉夫婦、そして気が緩んだ陪審員たちのマニーの視点のショットが並べられる。無罪にも関わらず、ひとり孤独な状況に置かれているマニーの描写として、原作・脚本が事件の本質を追求した証拠になる場面だ。この脚本・演出により、全体としては無駄なショットがない理路整然とした編集が特徴の簡潔な映画文体の見本のような映画であり、娯楽映画の楽しみが限定された、ある意味映像づくりのプロが参考にすべき技術的な楽しみがある。マニーが自宅アパートの玄関のドアを閉めるところのショットで、カメラは彼の後ろから撮るがドアを通り越して部屋に入る。マニーがドアを閉める音だけで表現したシーンが二度ほどある。部屋から切り返して撮るのが定石だが、この表現で沈痛な面持ちのマニーの心理を持続して描いている。ここにカメラを駆使した、カメラが作者のペンになったテクニックが表れている。そしてそれは、刑務所の個室に入り込むカメラが、終始マニーの顔を捉えて、釈放を言い渡されるショットの印象的な技巧にも効果的に使われている。

地球上には自分にそっくりの顔と体型を持った人が三人いると言われるが、そんな人が身近にいて尚且つ犯罪を犯して行方知らずなら、いつ自分に嫌疑が掛かるとも分からない。否そんなことはあり得ないと、どこかで安心しているのが普通の人間であろう。人相と筆跡と被害者の確信のない証言だけで有罪になってしまうなんて、現在の捜査基準では考えられない。そんなことを色々思いながら見て、でも一番怖いのはマニーの無罪が証明されても直ぐに回復しなかった妻ローズの精神的病だ。映画は、この敬虔なクリスチャンの良妻賢母のローズが、夫を信じきれないで疑う自分の罪に押し潰される女性の姿もリアルに描き出している。「捜索者」「サイコ」の活発で意気盛んな女性とは違う、繊細な神経を持ったローズを演じたヴェラ・マイルズの地味ではあるが確かな演技もいい。民事専門の何処となく頼りない弁護士オコナーを演じたアンソニー・クエイルも彼らしい個性を出している。撮影当時51歳のヘンリー・フォンダは38歳のマニーを演じている。この年の差の違和感がありながら、演技はそれを克服して見事にマニーになり切っている。正当に評価されない俳優人生だった人だが、この演技はフォンダの代表作の一本に挙げてしかるべきと思う。

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Gustav

1.0ヒッチコック感がマイナスに思えて…

2021年7月13日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

私としては買えない作品だ。
結局は、夫は冤罪で容疑者になり、
その夫に疑いを持ったために精神の破綻に
陥った妻、その夫婦二人の話なのだが、
そこに中途半端にヒッチコック感を出し、
さも何かがありそう的な描き方をしたこと
には流石に無理を感じた。

実話に基づくと言うのなら、
警察の似た男の捜索や、
筆跡が何故似ていたのか、との点について
全く触れていないのは、
主人公が逮捕されても声高々に
無罪を主張しないことも含め、
私はただ情報の外に置かれているように
感じさせられ、現実感も得られなかった。

ヘンリー・フォンダという、
アメリカの良心を体現するような俳優の起用
から、私は逆に、あるいはこの主人公が
実は犯人だったとの観客への罠なのかな
とも思い観ていたが、
さすがに中盤から妻の疑う描写が
出てきて思い直したものの、主人公の言動が
余りにも淡々とし過ぎていて、
ヒッチコックが実際にあった冤罪事件の
事実以上に何を表現しようとしているのか
分からなくなった。

監督がいつもと違う切り口で
社会問題へ迫ろうとする意欲は買うが、
思わせぶりなヒッチコック要素の行使が
邪魔をしていたように感じる。

内容からして、
夫婦の思索により深くウエイトを置いて、
別の監督で正攻法的に撮った方が良かった
のではと思わせるテーマ作品だった。

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KENZO一級建築士事務所

2.5無実を晴らそうとするのも大変な事

2021年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ヘンリーフォンダ扮するミュージシャンマニーは、妻と2人の息子に囲まれて幸せな生活を送っていた。マニーが生命保険会社へ証券の確認に行ったところ、以前銃を突きつけた強盗と間違えられ、自宅前で警察に逮捕された。似ているからと言っても店で首実験するなど全く失礼な話だな。しかし疑いの眼で見られて犯人に仕立て様と思うとこんなものかもしれないね。家に電話も出来ず腹はたっても無実を晴らそうとするのも大変な事だ。

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重

4.0隕石にでもあたったと思えれば

2021年6月23日
iPhoneアプリから投稿

冤罪で捕まったりする話を見ているといつも思うのは
その者を犯人にする警察の捜査がそれでいいのかと思います
もしかして真犯人かいるのではないかと別の捜査はしないのかなと?

警察は心配しないのだろうか?
別に犯人がいるのならその被害者になりうる人の危機が迫っているのだから
真実では無く犯人らしき人が見つかればそれでいいのだろうかと思ってしまう

実際はどうなのだろう、今の警察でも無いとは言えないでしょう
犯人だと思っている人達がそのフィルターを付けたまま容疑者を見れば犯人でしかないのだ
恐怖体験してしまった者はさらに上乗せされて犯人だと思うだろう
被害者にも罪はない、怖い思いをして似た人を見れば全てが疑わしくなってしまうだろうから
誰にも罪はないのだ

私は歳を重ねるにつれてだんだんわかってきたことがある
何事にも「あきらめ」は良くないと
冤罪もそうだし健康もそう、生きることもそんな気がします。

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カルヴェロ

3.0社会派

2020年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 オープニングでヒッチコック本人が登場。「この話は異色のスリラー。実話に基づいている・・」という台詞によって、いきなりぐいぐい引きずりこまれる。

 この警察の取り調べって・・・かなり恐ろしい。しかし、実際には妻が病気になってゆく姿のほうが悲しい事実。今でこそ冤罪事件を取り扱った映画はかなり増えてきているが、当時はそれほどでもなかったのだろう。社会性だけは十分に訴えている。

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kossy

3.5ヒッチコックには珍しい実話

2020年5月12日
PCから投稿

冒頭、監督自身が登場して、事実は物語よりも奇なりと
ひとこと入れるのから始まるのが、よかった

当たり前のように見えるシーンにも
あっと驚くようなテクニックがあって、
観客の緊迫感を煽っている。
その辺は、ヒッチコックの映画術を読むことにする。

個人的にいちばん怖かったのは、妻の存在かな。
事実なのだろうけど、精神病んでしまって2年も闘病って、
冤罪の二次被害がとてつもないよ、

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JYARI

5.0ヒッチコックからのヌーベルバーグへの回答

2019年2月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悪者は警察であり世間で前半展開される
主人公はあくまでも善人であり普通人だ
しかも犯人に間違われても逃げないし暴れない
圧倒的な権力になすがままだ
倒錯した逆さまのフィルムノワールとも言えようか
しかし、ヒッチコック作品らしく無いようで、ある意味強くヒッチコックを感じさせる強いサスペンスを感じさせる

それは冒頭からヒッチコックが逆光の影となってステージに現れて予告する事から始まる
カメオ出演で有名な彼がそれを諦めたと宣告している
そんなちゃらけた物語では無いと

そして、強盗犯に間違えられた男は、突然警察に連行されなすがまま容疑者に仕立てられ、ところてん式に機械的に拘置所に収監されてしまう
カメラはその様子を克明に記録的に撮っていく

拘置所の独房に入れられ鉄扉が閉まる
その覗き窓にカメラは寄り、独房内で放心する主人公を捉える、さらにカメラに向かって歩みより覗き穴から両目だけを超アップ一気に撮影してしまうシーンの物凄さは特筆ものだ

その妻を待ち受けるストーリーも後半に展開される
夫の無実を信じていながらも、こんなことになったのは妻である自分が至らないからだと言いだすのだ
彼女の心の奥底では、実はもしかしたらと微かに疑っている
もしそうなら、そんなことをさせたのは自分のせいだと責めているのだ
それ故にアリバイを証明する手立てが尽きそうになった時、妻の心が折れる
暗がりの逆光の中で暗くて見えない彼女の顔の目が恐ろしい程の光を一瞬だけ反射して、何かが彼女の心の中で起こったことを表現したシーンは凄まじいもので鳥肌がたった
いつまでも記憶に残るシーンだ
これ程の心理的描写はヒッチコックには珍しい

さらに音楽だ
バーナード・ハーマンの音楽が恐ろしいまでに冴え渡り最高の効果を挙げている
特にミュートしたトランペットとウッドベースのシンプルな曲が前半多用される
このクールジャズを思わせるような曲がヌーベルバーグでのフィルムノワール感を否応なく高めている
もちろん主人公が有名クラブの専属バンドのベーシストであることにかかっている
トランペットは戦慄と恐怖を、ベースは不安を奏でているのだ

ラストシーンは陽光明るいフロリダの光景が映りテロップによって一応はハッピーエンドでこの物語は終わると示されるのだが、その前のシーンがあまりにも重く作られており、これが本当のハッピーエンドとはとても言えないものであることを余韻に深く残す見事な構成だ

冒頭と終盤に主人公の演奏している曲が妙に明るい快活なダンスミュージックなのは本作の内容があまりに重すぎるからバランスを取っている計算なのは明らかだ

ピーター・フォンダの名演技が光る
彼はスターではなく夜に働く普通の父親にきちんと見える
最後まで怒鳴りもしないし、走りもしないし、手を上げることもしない、感情を抑えた表情や態度ばかりのそんな主人公でありながら、私達の目は彼が映るだけでずっと釘付けになっている

妻の役のヴェラ・マイルズも先のシーンをはじめ繊細な心理描写を巧みに表示してみせて素晴らしい

1956年のNYの街の様子もカメラに活写されている
冒頭、主人公が演奏するクラブは当時実在したストーククラブという店だ
当時、超高級で超の付くVIPだけが入店できるとクラブとして世界的に有名であった店だ
例えばヘミングウェイやマリリン・モンローやジョージ・デマジロが通うような店だ
その店の様子を伺えるだけでも観る意義がある

主人公はその専属バンドのベーシストであるわけだからなかなかの腕前と言うことになる

本作はヒッチコック作品としては異例の作風かも知れないが、ファンなら絶対に観ていなければならない作品だろう

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あき240