劇場公開日 1957年6月19日

「娯楽系サスペンスからはかけ離れた実録ドラマの決定版」間違えられた男 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5娯楽系サスペンスからはかけ離れた実録ドラマの決定版

2020年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「知りすぎていた男」と「間違えられた男」はヒッチ作の中でも間違えられがちな二大邦題として知られる。でも実際に見比べるとジャンルは根本から異なり、前者が娯楽サスペンスなのに対して、本作はリアルな実録ドラマのような構成。それゆえ、いつものように油断させておいて観る者をあっと驚かせる演出は、ここには皆無だ。私たちはただ、冤罪のために誤認逮捕されてどん底に落ちていく男の人生を見つめ続けねばならない。その雰囲気を壊さないためなのか、カメオ大好きなヒッチコックも、今回ばかりは冒頭でストーリーテラーとして顔を出すのみ。

ただしこんな中でも、不意にカメラが留置所の小さな「覗き窓」をスルリとくぐり抜けたり、ちょっとしたカメラの動きが感情の揺れを捉えたり、随所にキリスト画や十字架といった宗教的なモチーフが盛り込まれるなどの趣向が興味深い。ヒッチコック作品の中でもちょっとした異色作として受け止めうる一作だ。

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牛津厚信