劇場公開日 2021年11月5日

「声を紡ぐ」ベルリン・天使の詩 abokado0329さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5声を紡ぐ

2024年4月19日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

ヴィム・ヴェンダース監督作品。
なぜ今まで観てなかったんだろうと思うぐらいいい映画でした。
映画の可能性に満ちた作品。

天使のダミエルとカシエルには人々の内なる声が聴こえる。
その声は様々だ。他愛無い思いから悲惨な心情、愛の希求など。
そんな彼らの声が天使を媒介にして映画で語られる。
声が語られることは重要である。ベルリンの壁が今なお存立し、戦争の痕跡が残り続ける現在に、生を語り絶えず現前させること。それが歴史を堆積させることに繋がるのである。

だが天使は媒介者として、永遠の者として、言葉それ自体として、存在するがために、自らの声を語ることができないのである。なぜなら生き続け存在し続けるのだから声として自らの生の痕跡を語る必要がないからである。

だから天使のダミエルは人間になることを決心する。音楽を奏でるミュージシャンのように、そして恋するマリオンのように、自らの「声」で語る存在になろうとするのである。

また終盤のダミエルとマリオンの出会いのシーンでは、決断することが人間たらしめることをマリオンが語る。

「先の運命が分からなくても決断する時…」
「私達の決断は、この街のーすべての世界の決断なの。」
「今しか 時はないわ。」

過去でも未来でもなく、今しか生きることが私たち人間は、絶えず決断し、声を紡がなくてはいけないだろう。そしてその声が語られるためにも、天使を信じなくてはいけないだろう。見えない天使に触れるP・フォークのように。

田沼(+−×÷)