「みんなでファイト☆ドMクラブ」ファイト・クラブ かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
みんなでファイト☆ドMクラブ
チャック・パラニューク原作による同名小説の映画化。
監督は『ドラゴン・タトゥーの女』のデビッド・フィンチャー。
【ストーリー】
不眠症に悩む男(エドワード・ノートン)は、睡眠薬がわりの難病患者の会でマーラ(ヘレナ・ボナム=カーター)と出会う。
不眠で記憶が飛ぶ男。
あるとき意識をとりもどすとそこは旅客機の中で、隣の席のタイラー(ブラッド・ピット)と出会う。
タイラーは面白い話をする男で、妙に引っかかりを覚える。
自分の高級アパートにもどると、部屋はガス爆発でめちゃくちゃにふきとばされていた。
男はタイラーに連絡をとって2人で場末のバーで飲む。
店を出て、タイラーは言う。
「今夜泊めてほしいんだろ? いいぜ、ただし俺を思いっきり殴れ」
理不尽な要求をはねつけきれず、タイラーを殴ると腹を殴りかえされる。
それ以後、男は毎夜のようにタイラーと殴りあいながら、飲むようになる。
そのようすを見ていた酔っぱらいたちも加わり、やがてバーの地下では毎夜1対1での殴りあいが行われるようになる。
イベント参加の条件はたった一つ——「ファイトクラブ」と呼ばれるようになったこの集会を秘密にすること。
ファイトクラブです。
ガチンコじゃない方のファイトクラブです。
ガチンコの方がガチンコ(真剣勝負)かというと、まあご存じとおりですが、ともかく名前の由来になった映画です。
フィンチャーの痛みを際立たせる描写に、ゾッとする人も多いでしょう。
そしてある程度殴りあいの安全が保証されたこの手の決闘に、心惹かれる男子もいるはず。
健全にストレス解消したいならジムに通って格闘技でもすればいいんですが、それでは満足できない者もいる。
タイラーのカリスマは、法や社会からはみだす冒険と秘密主義の危険な空気に誘いこまれた彼らを、強力に結束させます。
これがただの大人のヤンキーマンガに終わらないのは、痛みにフォーカスして勝ち負けに意味をもたせず、主人公が破滅するまでその行為に没頭させるから。
「僕」がもっとも壊したかったのは、自分自身だった。
その欲望がルールのあるケンカに、まるで麻薬のような依存性をもたせる。
つまりこのクラブは反社会的ドMのコロニー……や、怖すぎでしょ、その価値観。
原作者はこの物語を「『華麗なるギャツビー』のアップデート」と語っています。
アメコミで続編が2つ発表されているそうですが、残念ながら未邦訳とのこと。
退屈な日常から脱却したい、むしろその日常を完膚なきまでに破壊したい、そんな破滅願望の充足ならフィンチャーの右にでるものはいません。
そういう鬱屈を解消したいなーとハミングしながら物思う午後、みなさんそんな時にはこの映画ですよ。
すっごい痛そうですけど、それを悦びに変えてくれそうなファンタジーが、ここにあります。