「鳩、 もらったことがあります。 逃げちゃいました。」愛と希望の街 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鳩、 もらったことがあります。 逃げちゃいました。

2023年10月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

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鳩、
もらったことがあります。
逃げちゃいました。
2ヶ月経って、もうそろそろ良いかなーと小屋の扉を少し開けてみたところ、あっという間に大空に飛び去ってしまいました。小学生の頃の懐かしい思い出。
元の飼い主さんからは半日後に電話がありましたよ
「鳩、逃げたでしょ?笑」って。

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1959年
大島渚
27歳

アーティストの作品、特に音楽のCDアルバムを選ぶとき「一番最初に出したものを買ってみる」と言った友人がいた。
それは多分に荒削りだし、未完成なところもきっとあるのだけれど、そのミュージシャンの一番良いところが原石の形ではっきり現れているからなんだ、と。

先日このサイトで、是枝裕和の監督初作品「幻の光」への拙レビューに、フォロアーさんから共感を頂いた。
あの「幻の光」は、そういえば是枝さんの最初の映画だったのだ。

それで今回は大島渚も、その初仕事を見せてもらいたくなり、DVDを借りて観てみることにしたわけだ。

27歳の大島渚、
本人の手によるオリジナル脚本とメガホン。長編初作品。
原題は「鳩を売る少年」。

松竹株式会社が興行封切りしたときの邦題が、本来の脚本から改題されて「愛と希望の街」とされてしまったことから、あの頃のアイドル=坂本九や吉永小百合出演作のような、朗らで爽やかな青春ドラマなのかと思いきや
・・とんでもなかった。
題名に“騙されて”、この映画から黒い衝撃を受けた映画ファンたちは、世の中に五万といたことだろう。
社会派ネオリアリズモの重厚な不条理劇であった。

秋山先生が、掘っ立て小屋に教え子正雄を訪ね、正雄の詐欺まがいの「ハト売り行為が就職試験の不合格の理由だった」と告げるところでの、
あの教師の言葉
・今夜わたし一人で思い詰めることは出来なかったので事実をあなたに告げに来た
・でも明日は元気に学校で会いましょうね
が大変胸を打った。
立場も年齢も超えて、貧困にあえぐ教え子と一緒に苦んだ彼女。
ここまで担任する生徒のことを思いやってくれるあり得ない姿だ。
「私だって生活に困れば、ハトではなく、自分の体を売ることだろう」と、悲しみと怒りのこもった静かな啖呵をきって、ブルジョアの恋人をたじたじとさせたシーン。

眞鍋理一郎のBGMが沈鬱で、冒頭からこれは「青い山脈」ではなかったことを我々は思い知らされるのだ。

ちなみに本作品の2年後には大島は「日本の夜と霧」を発表。「鳩を売る少年」のシナリオを高く買い、大島渚を監督に抜擢した松竹の社長城戸四郎自身によって、上映が4日目にして停止され、
大島は松竹を退社している。

情動に流されて二つの階級を仲直りさせるとか、しんみりと心に温かいものが流れるとか、そんなハッピーエンドとは無縁の、告発映画だ。

切れ者大島渚は、
その誕生からして、原石の鋭利な形状で、手に取る者に殺傷を与える凄物だった。

きりん
Kazu Annさんのコメント
2023年12月18日

昔、高校生の頃に見て、タイトルとのギャップに衝撃を受けた一人です。

無知で生意気なガキだったので、こんな頭でっかちな映画はダメだと思って、初期の大島渚映画は避けてきました。ただ、最近になって集中的に見て、あらためて日本の本質の様なものと格闘した凄い映画作家であったと、認識が大きく変わりました。この映画も、もう一度見てみたいものです。

Kazu Ann
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2023年11月30日

 きりんさんへ
結果的にきりんさんのお手を煩わせていまい、大変申し訳ございません。
きりんさんのこの御質問、以前見た記憶がありますが、残念ながら小生の記憶外・知識外でした。
今回はお役に立てませんでしたが、今後とも“映画.com”でのお付き合いのほど宜しくお願いいたします。

KENZO一級建築士事務所
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2023年11月30日

 きりんさんへ
この作品へのきりんさんのレビューがあったにも関わらず間抜けな返信を他の映画欄にしてしまい、申し訳ございません。
とにかくこの作品の後の映画を先に色々と観てきていた大島渚でしたが、実質デビュー作に彼の想いが集約されていただなんて大変な驚きでした。
因みに、現在再鑑賞出来ないでいる「絞首刑」「少年」「儀式」があるので微妙なランキングですが、現時点での私の大島渚映画のベスト3は、
1.愛と希望の街
2.戦場のメリークリスマス
3.日本の夜と霧
です。

KENZO一級建築士事務所
きりんさんのコメント
2023年11月3日

「愛と希望の街」という換骨奪胎の邦題について考察。

「鳩を売る少年」が「愛と悲しみの街」となり、松竹は最終的に大島渚の許しも得ずに「愛と希望の街」にしてしまった。

「自転車泥棒」は「自転車泥棒」。
「鳩を売る少年」は「鳩を売る少年」であるべきなのです。

「愛〜」「あ〜」から始まる題名の異常な多さ。そして芸能人の芸名も「あ〜」が恣意的に選ばれて付けられる。
あれは「五十音順で少しでも頭で目立つため」なのだそうです。(それを逆手に取ったのが和田アキ子)。
この安直さと軽薄さ。何をか言わんやです。安売り商業主義の残念さです。

きりん
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2023年10月29日

 きりんさんへ
コメントありがとうございました。
きりんさんへの返信コメントを間違って自分のところに入れてしまいました。
宜しければ小生のレビュー欄で御覧頂けましたら幸いです。

KENZO一級建築士事務所