バード★シット : 映画評論・批評
2010年6月29日更新
2010年7月3日より新宿武蔵野館にてロードショー
監督ロバート・アルトマン黄金の70年代を先導した怪作
飛ぶことを夢みた少年ブルースター・マクラウド。監督ロバート・アルトマン黄金の70年代を先導した怪作を無理やり要約すると、普遍の主題とシンプルな物語が浮上する。羽むしられたビッグバード然と思いがけなくスリムな正体に驚かされる。裏返せばそんな核心と共にぽっかりと居すわる絶望を色とりどりの登場人物と演者の個性で隠蔽し、世界をむっくり膨らませる監督の確かな業をそこに確認できるだろう。狂言回しの鳥類学者、“鳥の糞”連続殺人事件を追う「ブリット」もどきの刑事、羽をもがれたトレンチコートの守護天使、小枝なボディにマツゲが重い球場ガイドのイエイエ娘……。解放と改革の60年代の熱が冷め“シラケドリ”が飛び立った時代、鬱の仮面の躁状態を迷いなく呼吸してアルトマンの映画は笑えないジョークを涙ぐましく連発しうろうろ、わさわさ周辺へと肥大していく。そうすることで不可能を夢みて破れる人に向けた監督の心がまんまと包み隠される。
ちなみにUSC(※1)映画小僧による現場ルポが伝える撮影監督交替劇、後に「ブレードランナー」を撮るひとりに替え「フリッパー」「殺人鯨ナム」と動物もので知られたDP(※2)が起用された事実と生態を凝視するような映画の眼差しとの関連も興味深い。不可能に挑む少年の手作りの翼が逆に彼を制御して地上に叩きつける様を酷薄に観察する映画はアストロドームを巨大な見世物小屋としてみせる。それでも続くショーの狂騒。落ちた少年に注がれる目のそっけなさ。それゆえに縁取られる思いの深さ。若者の時代に乗るかにみせながら醒めた眼差しを国と人とに向けていた監督の真の姿が幾重にも仕掛けられたメタ映画の装置の向こうで再検証を要請している。
(川口敦子)
(※1)南カリフォルニア大学
(※2)Director of Photography 撮影監督