「茶化しすぎで全く現実を見ていなくてくだらない」博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
茶化しすぎで全く現実を見ていなくてくだらない
総合:20点
ストーリー: 15
キャスト: 50
演出: 20
ビジュアル: 50
音楽: 65
「運が良ければ2000万人の損害ですむから先制攻撃を」とかなんて正気ではない。真面目に描いてはいられない。だからこんなふざけた内容になるのだろう。人類存亡の危機で時間がないに、なんとものんびりとくだらない議論を続ける。
だけどこんなに不真面目にやられては緊迫感も何もあったものではない。実際には朝鮮、キューバ、ベトナム、イラクなど何度も核使用の危機があったことが歴史上知られている。しかし長崎以降の多くの場合、大国の上層部は核兵器の使用に関して慎重・真剣に熟慮していると思うし、だからなんとか今まで核戦争を避けられているわけで、それをこんなに茶化して何か面白いのだろうか。
同じ皮肉を描くにしても、『ノー・マンズ・ランド』のように現地司令官が仕事そっちのけで秘書とお楽しみで現場のことに関心を示さないとか、いかにも有り得そうなことを描けばまだ可笑しい。何故ならそれは社会や組織や制度の欠陥を暴き立てているからである。
だがこれにはそれがなく、有り得なさそうなことばかりが描かれる。それが本当に面白くて笑えればとりあえず映画としては喜劇として評価もできる。だが会議の途中で愛人を電話でなだめたり、米ソの首脳が残念さの度合いを競ったり、電話をかけたくても小銭がなくなったり、地下シェルターで多くの女に囲まれる生活を想像して喜んでみたりしても、私にはちっともおかしくなかった。
みんなが戦争回避に努力している中で、損傷したまま飛行を続ける最後の一機の任務遂行に皮肉にも努力する場面でようやく話としては多少盛り返した。最後の映像と音楽はなかなか素晴らしかった。
だが全体に茶化し過ぎ。こんなことで核兵器の抑止になるのならば苦労などしない。核兵器の管理や核戦争を軽く考えて馬鹿にしてんじゃないですか。1995年にノルウェーでの気象観測ロケット打ち上げをロシアがアメリカによる先制核攻撃と勘違いしたような、偶発的要素による戦争は否定できない。
しかし平和問題なんてものはこんな馬鹿げた単純なものではないし、それについて興味をもって勉強したことのある人にとっては全く満足できるものではないのではないか。私にはこのお茶らけた演出はちっとも響かなかった。キューバ危機のときに米ソ首脳が核戦争を回避するための凄まじい重圧の下で緊迫の行動を追ったドキュメンタリーを見た後では、この作品など失笑の対象でしかないし、むしろ腹立たしさすら覚える。普段はこういうことはあまり書かないほうなのだが、この作品を見て皮肉が効いていて可笑しいとか言っている人の正気を疑う。広島と長崎の犠牲者はこんな理由で死んだとでも言うつもりだろうか。今時こんなもの見ても時間の無駄でしかなかった。
古いので仕方がありませんが、映像は主に部屋の中を描いただけの白黒なうえに空飛ぶB52の模型の特撮がしょぼいです。