劇場公開日 2022年6月17日

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「「集団の怖さ」という、人類にとっての根源的な怖さを低予算で描ききった恐るべき傑作」ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「集団の怖さ」という、人類にとっての根源的な怖さを低予算で描ききった恐るべき傑作

2025年2月19日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

知的

最近のゾンビは全力疾走する。
未見だが作品によっては知性や理性があったりもするらしい。それって屍なのか?と思ってしまう。

もちろん常に新しいことにチャレンジしていくというのは娯楽映画に必要なことだと思うが、今一度初心を思い出してゾンビの本分に立ち返ってみることも大切なのではないだろうか。

ゾンビの本分とは何か?
それは「集団の怖さ」である。
決して一体一体の能力の高さではない。
自分は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を今回初めて観たのだが、改めてその思いを強くした。

ジョージ・A・ロメロのゾンビ3部作(話が繋がっているわけではない)と世に言われている作品群の第一作であり、ゾンビという存在を全世界に知らしめた伝説の一本である。

自分はモンスター映画の大ファンなのだが、この世ならぬ異形のモンスターたちが大好きなので、ゾンビという外見が普通の人間すぎるモンスターにはあんまり食指が動かなかったりする。『バタリアン』のゾンビなんかはけっこう異形のモンスターだったけど(笑)。

そんなわけで『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』も長らくスルーしていたのだが、観てみたらやっぱりとんでもなく凄い、恐るべき傑作だった。

原因がわからないまま死者たちが次々と甦り人間を襲いはじめる。
ゾンビ(この映画ではまだゾンビではなくグールと呼ばれている)の群れに囲まれた男女数名が一件の家に立てこもりなんとか生き延びようとする。

ただそれだけのストーリーの低予算映画であり、今のCGゾンビを見慣れている観客の目からするとゾンビもちょっと薄汚れた普通の人がヨロヨロ動いているだけなので拍子抜けかもしれない。

だが、これが地味に怖い。
自分のそばをヨロヨロ歩いているちょっとアブなそうな人がいきなり飛びかかってきたら怖い。
そういう日常生活の延長線上にあるような地味でイヤ〜な怖さがこの映画にはある。

さらに、そこにゾンビが集団で襲いかかってくるという怖さが加わる。
もし自分の家が、話の通じないわけのわからない集団に取り囲まれたらどれだけ怖いか。

人間も一人一人はちゃんと知性があるのに集団でパニックになると知性ゼロで暴走したりするものだが、ゾンビも一体や二体ぐらいならどうにか対処できるけれど、四方八方からワラワラと集まってくると手に負えなくなるのだ。

人類は原始時代から集団生活を営んできたが、その集団生活の中で人類の脳に刻み込まれることになった根源的な恐怖が大きく分けて三つあると自分は考えている。
その三つとは「自分の所属する集団が仲間割れを起こして崩壊する恐怖」「自分の所属する集団から仲間外れにされてはじき出される恐怖」「よその集団に襲われて自分の所属する集団が滅びる恐怖」である。
この三つは食料を手に入れられなくなって死ぬことと結びついてるからだ。

そして、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』はこの三つの根源的な恐怖をすべてを巧妙に描いている。

一軒家に立てこもった男女たちは小さいながらも集団を形成しているが、お互いに意見の相違があり、いつ仲間割れを起こすかわからない。
ゾンビと戦って避難所に向かうという強硬派、地下室で助けを待とうという穏健派、自分の意見を持たず振り回される者、それぞれが疑心暗鬼になり自分が孤立するかもしれないという恐怖心を抱いている。

一方で家の外ではゾンビ達がどんどん数を増やして中に押し入ろうとしてくる。
人間達の集団は仲間割れの危機を乗り越えて、ゾンビの集団に立ち向かうことができるのか。

ジョージ・A・ロメロは「外側にいる敵の集団も怖いが、内側にいる仲間の集団も油断できない」という、集団生活を営む動物である人間が抱える悲しい宿命をゾンビ映画という形で見事に描いてみせたのである。
衝撃的なラストには、人間集団が犯す愚行や暴挙といったものに対するジョージ・A・ロメロの冷ややかな眼差しがある。

「孤立する人間の集団と、それを取り囲むゾンビ(あるいはモンスター)の群れ」というシチュエーションは、この後も繰り返しホラー映画の中で描かれることになるが、この映画はその原点にして終着点といっていいくらいの完成度を誇っている。

この映画はアメリカ国立フィルム登録簿に永久保存されているが、それも納得である。
この映画はホラー映画という枠組みを超えて、全世界の大衆文化に絶大な影響を与えた作品であり、世界の文化史にその名が刻まれて然るべきマスターピースなのである。

盟吉津堂
活動写真愛好家さんのコメント
2025年2月21日

「孔雀王」の香港公開バージョン‼️ジャッキー・チェンを始めとする香港のカンフー映画に熱中していた幼き頃だったら絶対観たいでしょう‼️でも今はどうでしょうね⁉️

活動写真愛好家
活動写真愛好家さんのコメント
2025年2月21日

「孔雀王」への共感&コメントありがとうございます😊
確かに三上博史はミスキャストですね。それに本人もあまりやる気がなかったのか、宣伝活動にもほとんど参加してなかったし、参加してもものすごく不機嫌そうでした(笑)

活動写真愛好家
活動写真愛好家さんのコメント
2025年2月20日

盟吉津堂さん、おはようございます😃
映画にはさまざまなジャンルがあって、それぞれ先駆者の方がいらっしゃいますよね‼️ゾンビ映画では間違いなくジョージ・ A・ロメロ監督ですよね‼️最近のゾンビは走るのが速いのでタチが悪いのですが、逆にあまり恐怖感は感じないのかもしれないですね‼️それと仰ってる3つの恐怖、ホントに恐ろしいです‼️

活動写真愛好家
kossyさんのコメント
2025年2月20日

盟吉津堂さん、コメントありがとうございます!
ディレクターズカットなど色んなバージョンがあったように思ってましたが、この4K版も良さそうですね~
この作品以前にもゾンビ映画はありましたけど、今のゾンビ映画の基礎になった記念すべき逸品。
個人的に、走るゾンビは許せない立場です(笑)

kossy
NOBUさんのコメント
2025年2月19日

今晩は。
 まあ、今作には色々な解釈があると思いますよ。では。

NOBU