虎の尾を踏む男達のレビュー・感想・評価
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一流の武人は知力も一流
・何言ってるのか聞き取れないところがしばしば。勧進帳の読み上げや、その後の富樫との問答など漢語調・和語調なので聞き慣れないという点と、フィルムが古くて劣化しているというのもあったように思う。
・顔芸が凄い。弁慶役の大河内伝次郎、そして強力役の榎本健一(エノケン)。エノケンなんて「クシャおじさんかよ」という場面もあった。
・関所をクリアした後にもまだ話の続きがあったとは。「勧進帳」にあんな宴の場面が続きにあるとは知りませんでした。映画だけの設定?
・番卒たちの人垣の中を進む弁慶と一行。人垣の隙間から抜くショットが面白い。
・最後の強力の飛六方。斜めに手前に向かって来るショット。斬新だなあ。さすが黒澤監督。ユニークだ!
・空白の勧進帳を空で朗々と読み上げる弁慶。鋭い問いを矢継ぎ早に繰り出す富樫。それに淀みなく即答する弁慶。弁慶に対する「力だけの単純野郎」のイメージが覆える。富樫といい、一流の武人はやはり教養と知力も一流なのだな。
源義経を源頼朝から護衛する武蔵坊弁慶の話ですが、源義経が源頼朝の弟...
エノケン強力を生み出した黒澤監督
現代風の歌い方の長唄「勧進帳」から始まる。「旅の衣は篠懸(すずかけ)の 露けき袖や しほるらん」
大河内伝次郎、一声、二顔、三姿のお手本みたいだった。まさに弁慶役者(二代目吉右衛門の弁慶は加えて色気とフェロモンが匂い立つようだった)。問答でも勧進帳を読み上げるときも、歌舞伎では弁慶も富樫も観客の方を向きながらじりじりと緊張感を高めつつ富樫が弁慶に近づいていく。黒澤・勧進帳では、西洋の舞台のように両者は向かい合っている。これがとてもよかった。日本の舞台すべてにあてはまる、客に顔をみせるのが最も大事という考えから解放されている。それによって平面的で平板な絵でなくて、リアルで立体的な対決場面になっていた。
強力姿の義経を打擲した弁慶が義経に許しを乞う場面もすごくよかった。歌舞伎より両者間の距離が近く自然だった。そこで義経の品のある美しい顔が見えるのだが、照明がいいのかカメラの位置がいいのか誰もが自然と頭を垂れる義経の顔だった。義経役の仁科周芳(ただよし)というのは岩井半四郎さんのことなんですね。歌舞伎役者であり日舞の人、美しい。
そしてエノケン!茶化しつつも律義に弁慶チームに危険を知らせ判官贔屓の応援団!義経が強力姿になったのもエノケンみたいな本物の強力のアドバイスに従ったのかも、と思った。いや、そうに違いない!酒飲んでまずは踊るのがエノケン強力というのは腑に落ちる。そして弁慶が踊るか、というところで酒のせいもあって眠り込んだエノケン強力、目が覚めたら誰もいない。そこで弁慶の飛び六方をこけつまろびつエノケンがやってくれる。真っ白な勧進帳を見て大きく目を見開いてびっくりしたエノケン強力、愛嬌があって空気を和ませるエノケン強力。緊張するお話の中に入り込んで私達観客と同じ気持ちになってくれて一緒に勧進帳を楽しむバディになってくれた。勧進帳幕切れの花道はエノケンさん、あなたのものでした。
安宅と勧進帳
既にこの時点で黒澤明節とも言える味わいが濃く有ります
黒澤版「勧進帳」
DVDで鑑賞。
歌舞伎の演目で有名な「勧進帳」が題材ですが、オリジナルのキャラに扮したエノケンのコミカルさのおかげで、義経一行の醸し出す哀しい雰囲気に滑稽さが加わっており、コメディーとしても楽しめる作品なのが特徴だな、と…。殆どセットで撮影されていて、舞台劇を観ているような感覚になりました。
大河内傳次郎の弁慶が硬派で堂堂としているのに対して、エノケン演じる強力の動きがとても軽妙でコミカル。そのアンバランスさが絶妙で、かなり笑えました。後の「乱」での一文字秀虎と狂阿弥の関係に似ている気がしました。
安宅関の場面。弁慶が何も書かれていない勧進帳を読むスリルもありましたが、義経への彼の忠誠心が涙を誘いました。
役人の富樫が、義経一行だと気づいていながら関所通過を許すところに、人の心の美しさが垣間見えるようでした。
この後に彼らの辿る運命を知っているだけに、ラスト・シーンになんとも言えぬ寂しさが漂って、深い余韻が残りました。
[以降の鑑賞記録]
2018/02/11:DVD
※修正(2024/06/09)
オススメして良い映画だと思う
大河内&榎本の演技合戦
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