「12人一人ひとりにちゃんとスポットライトを当てたことが成功の秘訣」特攻大作戦 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
12人一人ひとりにちゃんとスポットライトを当てたことが成功の秘訣
1944年、春、第二次世界大戦下のイギリス、ロンドン。
米軍憲兵隊の刑務所では若い死刑囚に絞首刑が執行されます。
それを見届けたライズマン少佐(リー・マーヴィン)は呼び出された司令部へ向かいます。この男は有能な破壊工作員ですが上司を平気で無能呼ばわりしたりして軍の厄介者の設定です。
司令部には官僚的なお偉方ウォーデン少将(アーネスト・ボーグナイン)、デントン准将(ロバート・ウェッバー)と、どちらかというとライズマン寄りのアンブラスター少佐(ジョージ・ケネディ)が。ジョージ・ケネディ、いつもながらいい仕事をしています。出てくるだけで妙な安心感があります。
ライズマン少佐は「犯罪者集団を訓練してドイツ軍高級将校用保養所を襲撃せよ」との極秘任務を命じられます。これはもう「死んでこい」と言われたに等しい作戦です。彼らにお迎えはなく、ノルマンディー上陸作戦が成功すれば一緒に連れて帰って上げるという約束。この作戦は成功すれば大儲け、失敗しても厄介者をお払い箱にできるし、不用品どもの処分の手間が省けるという、上層部に取ってはリスクの少ない一石二鳥作戦ですが、命じられる方はたまったものではありません。たまったものではありませんが、上官の命令に嫌とも言えない苦しい立場。まず生きては帰れない無謀な作戦に、選択肢も拒否権もないライズマン少佐はしぶしぶ刑務所へ向かいます。リー・マーヴィンの背中に中間管理職の悲哀が滲みます。
刑務所には選抜された12人の犯罪者どもが待っています。選抜はされていますが、形式上は「志願」。彼らにも選択肢や拒否権はありません。12人の内訳は、5人の死刑囚と7人の長期刑懲役囚。ライズマン少佐の死刑囚個別面談シーンがキャラ紹介となっており、一人ひとりの個性と人生が浮かび上がってきます。
・元マフィアでケチな強盗殺人犯の問題児フランコ(ジョン・カサヴェテス)
・卑怯な上官を撃ち殺した元少佐のウラジスラフ(チャールズ・ブロンソン)
・白人嫌いの黒人兵士ジェファーソン(ジム・ブラウン)
・温厚な巨漢でケンカ相手を殴り殺したポージー(クリント・ウォーカー)
・女殺しの宗教的変質者マゴット(テリー・サバラス)
上記5人に加え、暴行、窃盗、強盗などの罪で重労働を含む長期刑に処せられている7人
・ギプリン(ベン・カルーザス)
・ピンクリー(ドナルド・サザーランド)
・ソーヤー(コリン・メイトランド)
・レバー(スチュアート・クーパー)
・ブラヴォス(アル・マンシーニ)
・ブラデック(トム・バスビー)
・ヒメネス(トリニ・ロペス)
死刑囚はどうせ死ぬのを待つ身ですので、座して死を待つくらいなら戦って名誉の戦死を遂げるにはいい機会。一方懲役囚たちは巻き添えとなり死地へ向かうことに。
さらに刑務所の看守であるボーレン軍曹(リチャード・ジャッケル)はさらに悲劇です。なんにも悪いことしていないのにこの作戦に巻き込まれ、最後までライズマン少佐と行動を共にします。お人好しにも程があります。
このやる気なしの自暴自棄有象無象どもをまともなチームに仕立てるまでの、ライズマン少佐と彼の忠犬ボーレン軍曹、二人の困難と苦労が本作の前半の見どころとなります。
時には暴力や髭剃りの禁止などの懲罰、時には酒や女の差し入れ。硬軟取り混ぜたライズマン少佐の手腕により、12人の男たちは徐々に連帯感を示すように。みんな髭面で汚い身なりになっていよいよThe Dirty Dozen結成です。犯罪者集団のはずなのに、彼らに親近感を抱いてしまう演出はさすが。この中間パートこそ、本作成功の鍵でした。
12人の中で、変質者マゴット(テリー・サバラス)だけは徹頭徹尾理解不能のサイコパスであり、下手な同情などは受け付けないキャラ設定です。小粒だがピリリと辛い山椒のようなキャラクターが効いています。
ライズマン少佐と元々因縁のあった嫌味男ブリード大佐(ロバート・ライアン)は事あるごとに彼らの訓練を妨害してきます。決して任務の内容を漏らすなという命令を守り、ウラジスラフはブリード大佐の部下に暴行されても口を割りません。元の階級や名前を聞かれても自分のことを番号で呼ぶウラジスラフ。自己卑下と反抗が入り混じった意地のつっぱり行為です。
因縁の決着は大規模軍事演習の場で付けることに。ライズマン部隊はあらゆる卑劣な手を使い、見事ブリード隊を降伏させます。ダメ人間軍団がエリート部隊を打ち負かす構図に、多くのダメ男観客たちは心を掴まれたことでしょう。私もその中の一人ですが。The Dirty Dozenたち一人ひとりに見せ場が用意され、キャラが描き分けられているので後半に向けて準備OKです。これが適当だと、彼らの死に様を見せられても悲痛さを感じられなくなってしまいます。その点本作は抜かりありません。
いよいよライズマン部隊は作戦本番を迎えます。まず、出演料の値上げ交渉に失敗したヒメネス(トリニ・ロペス)は、落下傘降下の失敗による事故死ということで、作戦開始早々にに画面から姿を消されてしまいましたw。
マゴットの暴走を皮切りに、周到に準備し反復練習した作戦計画は破綻してしまいます。次々と敵弾に倒れるThe Dirty Dozenたち。生き残ったのは3人だけ。
最も得をしたのがウラジスラフ、死刑囚から無罪放免。
損も得もしなかったのがボーレン軍曹。死地から生還。
ちょっと損したのがライズマン少佐。生還を果たすものの撃たれて傷を負います。
戦死した死刑囚の4名、懲役囚の7名は「名誉の戦死」扱いに。これは得なのか損なのか。
本作公開時、ナチス・ドイツ関係者はどんなむごい殺し方をしても大丈夫な時代であり、ナチス将校とその家族たちはまとめてガソリンで焼き殺されます。今の時代だと残酷な犯罪行為として議論を呼ぶことでしょう。
ラストでは戦死したThe Dirty Dozenたち一人ひとりの顔写真が紹介され、映画は幕を下ろします。
「特赦をちらつかされた犯罪者などから成る寄せ集めの部隊が特殊作戦に従事する」という本作のプロットはこの後もいろんな映画で何度も焼き直されることになりますが、本家を越える作品は出てきません。「十一人の賊軍」もまさにそう。内容は負けても時系列的には「十一人の賊軍」に軍配が上がります。
1964年、脚本家笠原和夫は十一人の賊軍のシノプシスを書き上げるが、岡田茂京都撮影所所長に「そんな負ける話なんかやってどうすんのや!」と一喝され、350枚の第一稿を破り捨てる。
1965年に発表された小説『12人の囚人兵』は、200万部以上のベストセラーとなり、MGMが映画化権を買い取る。
1967年、The Dirty Dozenのタイトルで本作が公開。
2024年、日本映画「十一人の賊軍」が公開。