「暴力は終わらない」時計じかけのオレンジ s_eyesさんの映画レビュー(感想・評価)
暴力は終わらない
まったくすごい映画に出会ってしまったと思う。
狂っている。
この映画の中での人物のキャラクターも、建物も、服装も、とにかく異様で最初は困惑した。特にアレックス含む4人組の服装は印象的。主人公のアレックスは、暴力とセックスとベートーベンを愛する15歳の少年。ホントに15歳か?彼の表情は常に狂気じみており、理性がない、悪魔のようで、挑発的で官能的だ。頭から離れない。また最高に魅力的。何をするにも手加減なく非情、爽快なまでの暴力の嵐。ともかく、雨に唄えば、を歌いながらのレイプシーンの破壊力が凄まじかった。この音楽だけでなく、第9や不気味なBGMも印象的で映画をますます狂気的にしている。
悪魔のような、彼が刑務所にブチ込まれてから、話が違う意味で面白くなってくる。もともとアレックスはかしこく、うまい具合に気に入られ瞬く間に世間に逆戻り。自分の中の悪魔を隠して一つ返事でコロコロ転がされるアレックスが滑稽だ。
そんな彼を見てると、以前、アレックスの暴力の下に隠れていた、誰の心にも存在する悪魔が次々顔を出してくるのがわかる。アレックスをルドヴィコ療法の実験台にしようとする連中、結局息子を見捨てた両親、昔の仲間達は今も昔も変わらず暴力の中に生きアレックスを痛めつけ、政治家は巧みに彼を操って政治のエサにし、アレックスの悪事を思い出した被害者たちは悪魔になる。
ルドヴィコ療法によって暴力行為に無防備となったアレックスは、こんなにもか、というほど痛めつけられ、大好きだった第9を聞きながら死を選ぶ。
そして、なんとも驚くべきことに、幾多もの暴力がアレックスの心の中に閉じ込められていた悪魔を呼び戻してしまう。看護師はそれを、平常だと言うのだ。なんということだろう、悪が肯定されてしまった。最後に彼は以前のように笑う。
暴力の中で暴力が生まれる。
被害者などおらず、正義なんてものはない。
狂わしいこの世界の中で、暴力は終わらない。
この映画に感銘を受けた人々は大勢いる。私もそうだし、完全に引き込まれてしまった。
どうだろう、
みんな、人間にはアレックスみたいな欲が渦巻いているんじゃないだろうか。
なんて思うと、ますますおぞましい映画だと感じる。