「天と地の物言わぬ相克そして融和」天国の日々 penさんの映画レビュー(感想・評価)
天と地の物言わぬ相克そして融和
「光は白銀の葉にやどり、梢こずえを雲と化し、妙なる調べをつむぎつつ、行ったり来たりにいそがしい。地上の世界の欲望が、天を夢見るこの園で、たぐいまれなリラの音は、銀と緑をひびかせる。」(メイ・サートン作 武田尚子編訳 「一日一日が旅だから」より)
自然光のみを使った撮影で、微妙な色の変化をとらえきった映像はその多くが夕暮れ時に撮影されていますが、そのすべてが魔法にかけられたような陶酔感に満ち満ちています。
でも、この作品に命を与えているのは撮影の美しさだけではないように思います。
それは、地上の世界の欲望が天国を夢みたときにおこる悲劇と、それでもなお変わらず美しい光に溢れた四季を紡いでいく自然との、二つの物言わぬ相克と融和を見つめる詩的な視点なのだと思います。
地平線の彼方どこまでも続く広大な黄金色に輝く麦畑。微妙な薔薇色に染まりはじめた青空を背景に、風になびくアビーの美しい髪の流れ。青葉輝くまぶしい陽光の洪水の中での結婚式。休息の日々。天国の日々・・・・。主人公たちは、内面に不安や怒りや罪悪感を密に感じつつ、天地の静けさや、雷鳴の轟に耳をすませます。
日本公開当時、新聞で幻の名作として紹介されていて、今はなきシネマスクエア東急で初めて鑑賞。先日4Kリマスター版で久しぶりに鑑賞しましたが、その間も、LD,DVD等で繰り返し鑑賞しております。見るたびに至福の時間を提供してくれ、私にとって大切な1本となっています。
若きリチャードギアやサムシェパードの演技も光っていますが、何より監督のテレンス・マリックと撮影のアルメンドロス、そして音楽のエンニオ・モリコーネの仕事が素晴らしい傑作だと思います。