劇場公開日 2011年8月27日

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天国の日々 : 映画評論・批評

2011年8月23日更新

2011年8月27日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー

その崇高さと峻厳な美しさで、見る者を圧倒する

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日没後、視界が暗闇に包まれるまでの、あえかな残光で満たされた薄明の数十分の時間を<マジック・アワー>と呼ぶが、それが作品そのものの代名詞として語り継がれてきたテレンス・マリックの伝説的な第2作である。

シカゴから流れてきた季節労働者リチャード・ギアとその妹リンダ・マンツ、恋人のブルック・アダムスがテキサスの大農場に雇われる。余命幾ばくもない孤独な農場主サム・シェパードがギアの妹を装うブルック・アダムスに求婚し、やがて悲劇が起きる。

<マジック・アワー>を中心に、ほとんど自然光によって紡ぎ出された名手ネストール・アルメンドロスの繊細で陰翳豊かな映像は、一度見たら決して忘れることはできない。地平線の彼方まで続く広大な大平原と苛酷な麦刈りの光景はアメリカの原風景といってよいが、ウォーカー・エバンスが大恐慌下の南部農民をとらえた傑作フォトグラフを想起させるほどに、その崇高さと峻厳(しゅんげん)な美しさで、見る者を圧倒する。

テレンス・マリックは、新作「ツリー・オブ・ライフ」で、ある家族の年代記を汎人類史的ビジョンにまで拡張させたが、この作品でも、妹マンツの素朴なナレーションによって語られることで、一見、ありふれた三角関係のドラマが、「旧約聖書」のペシミスティックな世界観を反映させた神話的な骨格、拡がりを獲得している。鉄橋を渡る列車、突如として空に現れる芸人を乗せた複葉機、途方もないイナゴの襲来、草原を焼き尽くす炎……、すべてはマンツの瞳に映じたノスタルジックな夢想に満ちた童話的世界の出来事のようでもある。

高崎俊夫

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