「永遠のマスターピース」天国の日々 TSアラヨットさんの映画レビュー(感想・評価)
永遠のマスターピース
この映画は自分にとって特別な「沁みる映画」なので、批評するつもりはない。
20代の頃、テレビの深夜映画で放送した際にVHSに録画して観て、「こんなにきれいな映像で切ない映画は観たことがない」と深く感動したのが最初の記憶。その後、数年後にDVDを購入して再度観て、全く色褪せることない印象だったが、このたび4Kレストア版が公開ということで、初めて映画館で観ることができた。
20世紀初頭、広大なテキサスの農園を舞台に繰り広げられる、三角関係を幹にした人間ドラマ。最初から最後まで、印象派の絵画のように、どこを取っても「絵になる場面」が展開され、観ている間、それだけでなんとも芳醇な気分になる。単に映像が美しいだけでなく、当時まだ無名に近かったであろう、リチャード・ギアやサム・シェパードら主演者の若き日の姿や、儚いストーリーに切ない気持ちがこみ上げる。ヒロインのブルック・アダムスは、いろんな映画に出ていると思っていたが、実はこの作品以外、あまりメジャーな出演作はなく、それだけにこの映画のヒロインとしての美しさが際立ったものになっている。妹役のリンダ・マンズも同様。登場人物すべてが幸薄く、ハッピーエンドにはならないが、それゆえになんとも愛おしい想いがこの映画の記憶としてずっと残っている。
監督テレンス・マリック、撮影ネストール・アルメンドロスの凄さは言うまでもなく、今回あらためて音楽がエンリオ・モリコーネだったと気づいて、オープニングの神秘的で耳に残るテーマ曲も素晴らしい。すべて野外のロケで撮影しており、イナゴの群れからの火事のシーンには、昨今のCGやVFXとは無縁な、本物の自然の過酷さがある。ドラマとしては、少々緩い部分があることも否めないが、そういう部分も含めて丸ごと愛おしく思える。
こんな映画は人生で何本も出会える作品ではない。自分にとって、永遠のマスターピースである。