「広大無辺の解放感」天国の日々 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
広大無辺の解放感
日本の田園風景を思い浮かべてみる。田んぼが段々に連なって、その果てに行き止まりのように巨大な山が座臥している。そこにはリアルな密度はあっても、解放感はない。解放感、解放感、解放感。こいつはけっこう重要なものだ。多くの人間がなぜ映画を観に来るかって、それは延々と繰り返される日常のサイクルの中にスカッとするような解放感の穴を穿ってやりたいからだ。そう考えてみたとき、アメリカの広大無辺な牧草風景が、視覚という回路を通じて受け手にいかほど絶大な解放感をもたらすものであるかがわかる。あとはそれをカメラによってうまく切り取ることさえできれば、それだけで映画は完成する。そして本作はそうした「切り取り」作業がほとんど完全なレベルで成功した作品だといえる。穏やかな風に揺れる麦、悠々とせせらぐ川、オレンジ色の夕日に踊る黒いシルエット。アメリカにはこんな美しい風景があるのかとひたすら圧倒される。こうした美しい風景ショットに比して物語があまりにも単調で緊張を欠いているのは、おそらく本作においては物語が風景を次のコマに進めるためのスイッチ程度の意味しか持っていないからだろう。物語ではなく風景に没入する映画。私がいまいち本作に入り込めなかったのも、おそらくiPhoneの小さな画面で鑑賞したからだと思う。
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