劇場公開日 1962年1月1日

「『いい刀はサヤに入って入る。お前たちもサヤに入ってろよ』」椿三十郎(1962) マサシさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『いい刀はサヤに入って入る。お前たちもサヤに入ってろよ』

2023年6月17日
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鑑賞方法:VOD
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マサシ
Gustavさんのコメント
2023年6月17日

記憶が曖昧なのですが、小学校低学年頃田舎の映画館で化け猫映画を観たことが頭の片隅に残っています。入江たか子主演だったかは分かりません。夏の風物詩みたいなものでしたね。泉鏡花は映画の「婦系図」しか知らない文学音痴の私が言うのも僭越ですが、尾崎紅葉の弟子で新派の作家ということでした。戦前の溝口健二が「滝の白糸」含め何作か映画化しています。鏡花と溝口の相性は良かったと思われます。時代劇は現代風に今も映画化されますが、流石に新派の演劇は過去の遺産になってしまいましたね。
「用心棒」と「椿三十郎」は好みが分かれるようです。こちらのサイトは「椿三十郎」を好むレビュアーが多いように見受けられます。西部劇を時代劇にアレンジした黒澤監督の面白さの追求と、緻密な脚本がユーモアとスリルの映画的な醍醐味として完結する黒澤監督の演出技巧、どちらも素晴らしいと思います。

Gustav
Gustavさんのコメント
2023年6月17日

マサシさん、コメントありがとうございます。
入江たか子が戦前の日本映画の美人スターの代表格であったのは、溝口健二のサイレントの傑作「滝の白糸」で偲ばれます。これは共演の岡田時彦と絶妙な競演であり、彼女の魅力が溝口演出で引き出されていました。ただ戦後、多くの映画に出演した中で化け猫映画に挑戦したことが話題になり、低俗映画に堕ちたかつてのスターの凋落と烙印を押されたようです。晩年の溝口作品に出演予定が、満足できない演技力を罵倒され降板した事件が有名ですね。溝口健二を崇拝する浦辺粂子も激怒した、溝口の苛めは相当酷かったと言われています。この映画の黒澤監督の使い方は、入江の演技力に合わせた巧い使い方をしていると思います。実際彼女の代表作に「滝の白糸」と並んで後世に遺されたのですから。
江戸時代の武士が人前で刀を抜くというのが、生死に関わる真剣勝負であったことから生まれた台詞が物語に活かされていますね。これは淀川長治さんから得た知識の私なりの解釈なのですが、男の武器は隠し持ったナイフというものがあります。それは才能と言ってもいい。女性は存在自体に価値があるけれど、男の価値は才能が無いと意味が無い。隠し持ったナイフを常に磨いて鋭く光る状態にしておく。いざとなった時にちらっと見せるだけでいい。本当にできる男は自慢げに刀を振り回さないと諭す椿三十郎の男の哲学の伝授が、この映画にありますね。

Gustav