ベクシル 2077日本鎖国 : インタビュー
「ピンポン」の曽利文彦監督が、モーションキャプチャーを取り入れた革新的な3Dライブアニメ「アップルシード」のプロデュースを経て、今度は自身の手で新たな3Dアニメ「ベクシル 2077日本鎖国」を完成させた。黒木メイサ、谷原章介、松雪泰子ら豪華キャストも話題の本作について、常に進化を遂げる映像表現へのこだわりや、伝えたかった思いなどを語ってもらった。(聞き手:編集部)
曽利文彦監督インタビュー
■情報だけでつながる人間関係に危うさを感じる
――ロボット技術の発展した日本が、その技術力を世界から危険視された結果、“鎖国”という道を選択する。とても大胆で面白い設定だと思いました。
「もともとコミュニケーションが不足してきているということが、話の原点にあったんです。現代は人と人が直接コミュニケーションをとるのが大変になってきて、メールやケータイといったテクノロジーがそれをサポートしてる。“情報だけでつながる人間関係”みたいな社会構造が加速しているわけで、もし情報が遮断されると、個人が孤立してしまう。それが“個人の鎖国”という発想となり、鎖国と言えば国を閉じることだから、そこから今回の設定に広がっていったんです」
――テクノロジーの進歩に対する警笛のようなメッセージをこめたつもりはありますか? 現実社会でも、クローン技術が問題になっていたりしますが。
「テクノロジーの進歩そのものは、いろいろな利点をもたらすと思うんですが、そのために人が集団で生きていくことのバランスを失い始めると危険だという思いはありますね。発達したテクノロジーの良いところをいかにきちんと扱い、悪いところをフォローするかというのが重要で。ただ、そうしたことを考えていて、どうしても戻ってしまうのが、先ほど述べたコミュニケーションについてなんです。情報だけでつながる人間関係というのが、いろんなところでバランスを崩していきそうな気がします」
■本物以上にリアルに見せてしまう、飛躍した技術力
――技術的な部分では「アップルシード」に比べて人物の描写が豊かになった気がしました。陰影の細かさなどで、表情が豊かになったというか。
「『アップルシード』の頃に比べると、表情や顔の動きという部分に関して、技術が飛躍的に進歩しました。その技術を最大限に利用すると、逆に本物の人間以上に動いてしまうので、そのさじ加減が難しいというのはありましたね。動きすぎて困るというのは不思議な話ですけど(笑)。また、衣裳なんかも『アップルシード』と全く違って、折り目ひとつ、皺ひとつまで描けるようになり、人物の動きがある程度リアルなので、細かい皺なんかには気を配りました」
――アクションシーンはある程度勢いで乗り切れると思いますが、逆に抑制されたシーンが難しいのでは?
「おっしゃる通り、アクションシーンに関しては、少々絵が粗くても迫力で押し切れると思うんですけど、今回はいかにキャラクターがきちっと芝居ができるかというところが力を入れたところでもあり、それが可能であるからこそ、自分で監督しようと思ったんです。セリフのあるところは声優さんに助けられてる部分も多いと思いますが、顔や雰囲気だけでお芝居するところは、その演技を作るのが特に大変でしたね」
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