ネタバレ! クリックして本文を読む
これ、昔見て物凄く記憶に残ってたけど、また見たくなって借りてきてしまった。こんなに評価低いとは。
レビューを見てみたら、いまいち意味わからんとのこと。なんだと!
…確かに〜!
あらすじ:
作家のマイクは、一人娘を病で亡くしたことで妻ともうまくいかなくなり、何も告げずにNYから出てLAに移り住み、今は信じてもいない心霊スポットのレビューを出版し小銭を稼ぐ日々。ある日、NYのドルフィンホテルから突然「1408号室に入るな」とだけ書かれた葉書が届き、興味を持ったマイクは、娘を亡くしてから縁遠くなっていたNYに久々に訪れる。最初はホテル側が自分に記事を書かせるために葉書を寄越したと考えていたマイクだが、支配人は真面目腐った顔で「そんなことで集客しなくても常にいっぱいだ」と馬鹿にされ、「あの部屋には泊まるな」と言うばかり。意地になったマイクが1408号室に何としても泊まると言って聞かず、渋々鍵を渡す支配人だったが、その部屋は予想もできないことばかりが起こる地獄のような場所だった…
この映画大好きなんですが、すげー低評価だな…多分内容がキリスト教すぎてほとんどの日本人には意味不明だからじゃないかと。
かく言う自分もキリスト教チンプンカンプンなんで、初めて見た時は聖書が出てきた時点で理解しようという気力自体に別れを告げましたが、いやー?でもねえ?理解できなくても、お化け屋敷みたいで楽しいでしょ、これ?
全部で1時間50分程度の本作ですが、始まって30分経つかどうかから緊張感あふれる1時間半ですよ。まじで手に汗握るよ(ハードルを上げていく)。
突然知らん奴が部屋にいたり、突然知らん奴が後ろに立ってたり、突然知らん奴が襲ってきたり、非常にバリエーション豊かなビビらせ体験をさせてくれるので、最後までほんとに飽きません。知らん奴ばっかやないか。
もちろんそんなお化け屋敷体験を2時間やってるだけの作品ではなく、ちゃんと意味はあるんですが、如何せんキリスト教の話が濃すぎてな…自分も調べてみたので、一応覚書として残しておきます。
まず、キリスト教では自殺は絶対NGとか、「永遠の命」をゲットすることを目指してる?とかいう話は有名ですが、この「永遠の命」というのは不老不死のように「永遠に生き続ける」ことではなく、死後に肉体を捨て、天国でずっと幸せに暮らすことを意味するんだそう。
で、キリスト教では神を信じていれば、罪はキリストが背負ってくれるため死んだら天国に行ける。逆に、神を信じていないと自分で罪を背負わなければならない=(罪を犯さない人間はいないため)必ず地獄に落ちる。
ここで本作を思い返してみると、マイクは窓の外に追いやられそうになったり、窓から身を投げる幽霊を見たり、あるいは死んだ娘を見せられる。最初から最後まで、キリスト教最大の罪である自殺に追い込もうとしているような。
実際、終盤では「チェックアウトしますか?」の音声と共にそこここに首吊り縄がぶら下がり、わざわざ娘の墓と共にマイクの墓が出現し、墓穴すらも掘ってある。もはやアトラクションか?と笑ってしまうくらい自殺を激プッシュしてきます。
人間が自殺して最大の罪を背負ってくれたら、飛び上がって喜ぶのは悪魔ですよね。
1408号室は、最後の審判からの地獄の入口だったというわけです。だから大抵の人間は入ろうとしないし、関わりたくない。空調を直しに(?)来た男性も、決して部屋には足を踏み入れず、チップすらも受け取らず逃げるように帰って行きました。その部屋に入ろうとするのは、自分に見えるものだけが全てだと考える傲慢な人間=神の救いを信じない者だけ。
マイクも初め、幽霊も神も信じないと言ったり、ホテルの聖書をわざわざ取り出して床に投げ捨てたり、全く信じていない様子。
ホテルから「1048号室に泊まるな」の葉書が届いた時、マイクが何故あんなに執拗に泊まりたがるのかわかりませんでしたが、その前に溺れて死にかけたことで悪魔に呼ばれたのかなあと。そもそも娘を亡くし妻を捨てて放浪し始めてから、自堕落状態だったようなので、何かもうひとつキッカケがあれば自殺してくれる、と悪魔に既に判断されてたのかも。
ちなみに、溺れるきっかけとなった空飛ぶ保険屋の宣伝の文字は、1回目は読めずに終わる。2回目、部屋の中で見せられた幻覚で、漸くハッキリと読み取ることができる。これが保険屋の宣伝なのは、途中でマイクの台詞にちらっと出てくる「カフカ風のホテル」という言葉からも、フランツ・カフカを意識してるのかなと思います。多分。
フランツ・カフカは『変身』が一番有名だと思うんですが、生前は保険局で働きながら小説を書いていたのだとか。『変身』は個人に降りかかる不条理を描いた作品だそうで、「主人公の男がある日突然起きたら巨大な毒虫になっていて…」という話。本作もそういうことなのかなーと思ったけど、不条理ではないよな。
カフカは父親に小説なんか書いてんじゃねーよと嫌がらせされても、働きながらでも小説を書き続けたうえ、健康的な生活を意識し、めちゃくちゃマメで礼儀正しく、繊細で、身分の低い人達にも優しかったとのことなので、著作ではなくカフカ自身をマイクと対比させてるのかも。確かに(カフカに関しては記録しかないが)全部真逆といっていいくらいの差か。
マイクは元々神を信じず、娘を愛していると言いつつ世話は妻に押し付け、育児中に妻が「手伝って」と言うと「煙草買ってくる」と逃げ出し、娘が好んで聞きたがった天国の話を妻がしてやっている最中に「くだらない話をするな」と横槍を入れる。弱者に優しいどころか、自分の家族にすら最低な奴。
その割に、娘が死んだ後は「もっとしてやれることがあった」と癇癪を起こして妻に当たり散らしたり、NYの家から黙って出て行った理由も「君を見てると娘を思い出すから」…とまあ全くもって褒められた人間性ではないんですが、この「罪」の数々を1408号室で見せられたマイクは、徐々に自分の罪を本当の意味で受け入れ始めます。
回想を見てもわかりますが、マイクは極めて自己中心的な男で、上記のような仕打ちをした妻に対し、自分の都合が悪くなった時だけ助けを求める(しかも妻の都合は無視)。
隣の部屋の白いワンピースの女性に助けを求める時も、自分の声が届かないと知るや否や、赤ん坊の泣き声にキレて怒鳴りつける。命かかってるから…と思って見てましたが、回想を見るに、多分これ元々の性格なんでしょうね。
しかし終盤には、テレビ電話で助けを求めた妻が悪魔に目を付けられたことを知り、妻が1408号室に入らないようにと必死に策を練ったり、床に投げ捨てた聖書を手に取ったり(白紙だったけど)、他者を愛し、神の救いを求めるようになってきています。
マイクが1408号室に火をつけ、自分のホテルが燃え落ちていくというのに、支配人は「よくやった」と言っていますが、これは支配人が天使だからということのよう。
支配人は最初から「部屋に泊まるな(=神の救いを拒絶するな)」と何度も忠告しています。エレベーターで14階まで送った後でさえ「部屋に入るな」と忠告し、その後また別のエレベーターが、人も乗っていないのにマイクの目の前で開く。引き返す最後のチャンスと言わんばかりのそのエレベーターも無視し、マイクは1408号室に向かう。
途中、ハエのたかる誰かの食べ残しが床に放置されている。もちろんこのハエが表すのは、人間に悪魔崇拝を促すハエの王ベルゼブブでしょう。サタンと同じくらいワルなんだってよ。
そう考えると支配人は、悪魔の囁きによって地獄の入口に吸い寄せられてきた人間に最後のチャンスを与える役割を持っている=天使と確かに考えられ、悪魔の誘惑を振り切り神への信仰を受け入れたマイクに「よくやった」と言うのは理解できます。
そして妻を本当の意味で大切に思い、心から守ろうとして1408号室に近付けず、自身も部屋から命からがら脱出し、娘の死を乗り越えて妻とヨリを戻してハッピーエンド。
…ではない。
最初見た時は、部屋から出られて良かったねーくらいにしか思ってなかったんですが、これ多分、出られてないよね?
上にも書いた通り、部屋で悪魔が「チェックアウト」=自殺を勧めてきますが、マイクはそれを拒否し、自分で部屋に火をつけます。自分で。
そして、壁に書かれた「生きながら火に焼かれる」。本を書き終える時のマイクの言葉「俺の幽霊物語もこれで終わりになる。チェックアウトだ」。
ボイスレコーダーを再生すると、そこには娘の声が。それを聞いて引っ越し準備中の妻が箱を取り落とす。娘の声が入っていたことに驚いた…のではなく。
「お前はケーティじゃない」「助けてパパ もう私を愛してないの?」「愛してるよ」「一緒にいたいの みんなで」
この会話を聞いたから。そして、このケーティに対するマイクの答えが
「いられるよ お前もいるし やっとお前を捕まえた もう離さないぞ」
ケーティが人間の心の弱みに付け込む悪魔だとわかっていながら、「皆で一緒にいたい」と言う悪魔に「いられるよ」と返してしまった。
そして、妻はホテルの火災に関して「古い配線が出火した」と言いましたが、実際にはマイクが自分でつけた火です。そして「生きながら火に焼かれ」、もし死んだのであれば、それは「自殺」です。
マイクは改心し、神の救いを信じたが、同時に神が救うことのできない自殺という方法で死に、悪魔のもとへ行ってしまった。
そういや途中で、マイクが地獄の何レベルみたいなことブツブツ言ってますが、これはダンテの「神曲」の話。
実は聖書には地獄がどんな場所か、という話はほとんど書いていないそうで、聖書外典にちょっと書いてある地獄のイメージを参考に、ダンテが「自分が地獄巡りしたらこんな感じ」とカッコ良く詩的に纏めたのが「神曲」だそう。
地獄は9段階あるか何かで、1レベルはキリスト教を知らん間に死んでしまった人達のための救済層だから、とんでもなく昔の人達と赤ん坊とか幼児とかがほとんど。たまにキリストが遊びに来て、そこの人達を連れてくこともあるらしい。なので現代人が行くのはほとんど2レベル以降。
キリスト教に入らなかった奴らが6レべ、自殺他殺、暴力は7レベ。ここまでは熱い地獄。そして裏切り者が行くのが最深部のコキュートス。このコキュートスが氷漬けの激寒地獄で、ルシファーのいるところなんだとか。
本作でも1408号室が最初は汗だくになるほど熱く、今度は突然極寒になっていましたが、あれは地獄の入口から最深部までを徐々に下りていっていたということなんでしょう。
と、こんな感じで、キリスト教のことに詳しければ詳しいほど楽しめる本作です。ええ。日本人にはワケわかんねーよ。
近年、アメリカでもキリスト教を真面目に信仰する人はかなり減っているようですが、そういう影響はないのか?聖書も読んだことないって人が増えているそうです。そしたらこういう映画も、理解できない人が増えていくのでは。
まあ、アメリカも徐々に「アメリカ万歳!アメリカが認めたものは世界中で認められるんだ!」の体質からは脱却してきたってことなんでしょうね。
ホラー表現は確かにそんなでもないけど、アトラクションと思ってスリルを楽しめる人にお勧め。
キリスト教やダンテの神曲に詳しければ更に楽しめます。