「思いをつなぐ映画」劔岳 点の記 keebirdzさんの映画レビュー(感想・評価)
思いをつなぐ映画
私は都会っ子のままおじさんになって本物の自然や山行の奥深さなど殆ど体験せずに生きているためか、この映画の基底にある未踏の自然への畏怖やそれに立ち向かう山男たちへの思いを十分に読み取れない自分がもどかしいが、それを何となく感じさせてくれる、全編に透徹する静かな力強さを持った佳作であり労作と思う。
格好つけたレビューのタイトルになってしまったが、作品のつくりもストーリーも冒険や記録達成自体が主眼ではなく、険しい山へ行く者、測量の網を地の果てまでかけようとする者たちの思いを自然描写とともに静かに語っている。
そんな良い鑑賞後感の割に評点が低いのは、所々物語進行の緻密さやテンポが鈍くなる感があるからで、これは偉そうに言うと日本映画に伝統的にありがちな脚本・セリフ取捨、撮影・配光の甘さのような気がする。ただそれをあくまで日本映画的な作風だと捉えられれば、あと星一つくらい増やしても良いかも。
私事ながらこの映画はその数ヶ月に亡くなった母の退院後初、人生最後の劇場映画鑑賞となった作品。予定ではそれからも映画を銀幕で見ようと話していたが果たせなかった。予感はあったので当時掛かっていた映画の中から親子で慎重に選び、本来洋画好きの母は「なかなか良かった」と言っていた。その点でこの映画と製作者、映画館に深く感謝している。
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