「山岳映画 日本人の根っこを描く映画」劔岳 点の記 テツさんの映画レビュー(感想・評価)
山岳映画 日本人の根っこを描く映画
有名役者達があの険しい山に自力で登り、本物の雪山に泊まり込んで撮影をしている、ということだけでも驚きの作品。こんなことを役者に要求する監督も、それに応えた役者達も、重い撮影機材を山頂に担ぎ上げたスタッフ達もすさまじい。
現在のような優秀な装備も、近代的な登山技術も、確立された登山路もない状況で、冒険としてではなく測量という仕事のために、人を寄せ付けない険しい岩山に挑む測量士達の姿に引きつけられてしまう。未踏峰に登るために様々なルートを試したり、雪で失われた道を探りながら歩くことがこんなにも危険なことなのかと思い知りました。
大げさに感情を表現することなく、功を焦ることもなく、職業人として淡々と、しかし強烈な責任感を秘めて果敢に劔岳に挑む柴崎に、日本人の根っこを感じます。山を知り尽くした地元の山岳ガイド宇治長次郎の謙虚で実直な人柄も、失ってはならない日本人らしさを感じます。ラストの山頂で発見される意外な物によって、自然と一体化した日本人の根源的な宗教心も感じます。
この映画には、派手な演出も、劇的な死も、ドラマ作法としての激しい対立関係もありません。淡々とした演出と抑えた演技で構成されています。しかし、だからこそ山の厳しさが浮かび上がり、その厳しい山に挑む男達の内に秘めた強さが浮き彫りになります。
役者達の演技も、山岳風景も、人間ドラマも、何から何まで素晴らしい。
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